オープンイノベーションで、
今こそ新たなサクセスストーリーを
――最近では理工系大学の取り組みが注目される事例も出てきました。
そうですね。たとえば近畿大学ですが「近大マグロ」は着想と継続性、そしてビジネス化した点が素晴らしい。しかもマグロの完全養殖なら通常、水産学部や農学部がやるべきところですが、それを工学部が生み出したという点は、とくに興味深いですね。さらに短期間ではなく、30年ほどの期間を要して、粘り強く研究開発したことも注目すべきです。他大学もそれぞれのノウハウをもとに、水産業ほか、農業、林業など一次産業で寄与すべきところはたくさんあるはずです。近大の取り組みを一つのモデルとして、学生や研究者のインセンティブを高めていくべきでしょう。
――大学だからこそ、できることがたくさんありそうですね。
福岡工業大学でも「減災」の研究に取り組んでおられますよね。人間誰しも、世の中のためになる仕事をしたいと思っているはずです。モノをつくるだけでなく、災害の被害を食い止めるような社会的な課題を解決するためにも、もっと理工系学部の知識を活かすべきでしょう。自分の技術が世の中の何の役に立つのか。そこに生きがいを感じる方々が増えていけば、大学ももっと変わっていくと思います。
――理工系人材を増やすにはどうすればいいのでしょうか。
成功事例を積み重ねていくことでしょう。例えば、ベンチャーでは株式公開以外にも、M&Aによる事業売却というゴールがあります。大企業はベンチャーのテクノロジーをもっと活用すべきです。今は日本全体がオープンイノベーションを必要としている時代です。NEDOでも日本にふさわしいエコシステムをつくり上げようと努力しています。
――これからの理工系人材に期待するものは?
冒頭では科学技術の進化のスピードと大学教育にあるタイムラグについて触れましたが、学生の皆様は、在学中からサイエンスだけでなくエンジニアリングを視野に、多くの経験、広い世界観を養って欲しいと思います。
大学側は尖った技術を生み出せる仕組みとして、大学発ベンチャーを支援するプランや、ビジネスに通じる講義を行う等、学生の背中を押して欲しい。そうして早い段階からサイエンスにも、ビジネスにも触れて、社会とのタイムラグが少ない人材を期待したいです。
また、サイエンスの専門家たる研究者の皆様も、研究者の産学交流、ベンチャーの立ち上げなど、自らの研究開発をビジネス方面に送り出すチャレンジに、もっと挑戦して欲しいですね。既にこうした動きをされている方々もおりますが、まだまだ素晴らしいエンジニアリングの種が埋もれているはずです。多くのサクセスストーリーが生まれれば、多くの人材がそこに集まってきます。我々も科学技術のサクセスストーリーをつくるために、大学、企業などに対して惜しみない支援を続けていきたいと思っています。