オープンイノベーションで、
今こそ新たなサクセスストーリーを
日本が“尖った技術”を生むために必要なものとは
――理工系人材の現状と課題についてお教えください。
日本の戦後70年を牽引してきたのは、言うまでもなく科学技術です。科学技術があってこそ、世界で驚異とも言われた日本の成長が成し遂げられました。天然資源のない日本では、人材こそが資源であり、多くの技術者を育成することで日本は科学技術立国になり得たのです。しかし、現状を考えると、理工系学部の学生数は文科系学部の半分しかないうえ、大学教育と社会が要請するニーズとの間にギャップが生じているように見えます。現在の科学技術の進化のスピードと大学教育に、ある程度のタイムラグがあるのは当然だとしても、そのギャップを埋めるさらなる努力が必要でしょう。
――今、日本の製造業はどんな問題に直面しているのでしょうか。
企業間競争ではグローバル化が進み、製品単品よりもシステム化された高度な製品・サービスが求められています。しかも開発期間の短縮化、開発の高効率化を迫られ、経営の舵取りも一筋縄ではいかない状況になっています。日本には世界で活躍するメーカーが数多くありますが、世界で勝つためにも、より多くの理工系人材が必要になっているのです。
――産業界・NEDOでのご経験から、現在の理工系人材に求められるものとは何でしょうか。
かつて私がアメリカで仕事をしていたころ、赴任と同時に自分がリクルーターのデータベースに載ったことに驚きました。待遇条件などの問い合わせが頻繁に来るようになったのですが、エンジニア個人が市場でどれだけの価値を持っているのか、否応なく感じさせられました。そうした人材市場という観点から見れば、現在は、“尖った技術”を生み出す人材の価値が高まっていると言えるでしょう。
――日本が“尖った技術”を生み出すにはどうすればいいのでしょう。
実は日本企業の研究開発投資の9割以上が既存の製品開発に向けられており、新分野の製品開発への投資は1割未満に過ぎません。いわば、9割以上が今後3年以内の製品に対する投資であり、リスクがあって長期の開発期間を要する製品開発にはほとんど資金が回っていないのです。これでは“革命的な”製品を開発することはできません。NEDOでは今、有望なシーズをもった大学発ベンチャーなどの支援を進めています。様々なスキームを使いながら、多くの成功事例をつくって、現状を変えていきたいと考えています。
――ベンチャー支援にも積極的なのですね。
これまでは中堅・中小企業の支援が中心だったのですが、ここ数年はとくにベンチャー育成に力を入れてきました。結果として、支援先の15社が株式公開し、全社で7000億円以上の時価総額を達成することができました。
オープンイノベーションをさらに進めていくために
――企業と大学の関係性はどうあるべきでしょうか。
学生のインターンシップは進んでいますが、研究者の産学交流をもっと進めなければならないでしょう。アメリカでは産学交流は当たり前ですが、日本はそれほど積極的ではありません。NEDOでは大学や産業界など多分野から人材を集め、いわゆるダイバーシティの中で、オープンイノベーションを進めようとしています。これは日本では極めて珍しいケースです。アメリカでは大学がリーダーシップをとって、ベンチャー育成や産学交流を行っています。日本の大学でもこうした取り組みをさらに積極的に進めていくべきでしょう。