前大統領の「電撃逮捕」で大荒れ必至のフィリピン 麻薬撲滅戦争の罪、マルコス大統領の真意は

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2022年大統領選では、すべての世論調査で大統領候補のトップに立っていたサラ氏が副大統領選に回ったことでマルコス氏は圧勝した。いわば大統領の座を譲られた経緯から、マルコス氏はドゥテルテ陣営に配慮しながら政権運営を進めるとみられていた。

ところが新政権発足後、前政権の政策は相次いで覆された。サラ氏は国防相兼務を希望したが、教育相に回された。外交・安全保障政策では、親中路線から親米路線に転換し、中国に対し南シナ海領有権問題で一歩も引かない立場を明確にした。

加えてマルコス陣営の番頭で、次期大統領の座を狙っているとされるマーティン・ロムアルデス議長率いる下院が副大統領府の要求した予算を削減したり、過去の予算執行に疑義を唱えてサラ氏を召喚したりしたことで、ドゥテルテ陣営が態度を硬化させてきた。

2024年1月、ドゥテルテ氏はマルコス大統領を「麻薬中毒者」と呼び「憲法を改正して父のように長期政権をもくろんでいる」と批判。同年11月にはサラ氏が大統領夫妻とロムアルデス議長を名指しし「もし私が殺されたら、3人を暗殺するよう依頼した」と発言していた。

下院は2025年2月25日、大統領夫妻らへの暗殺発言、機密費の不正支出疑惑、超法規的殺害への関与などを理由にサラ氏を弾劾訴追した。定数318のうち訴追に必要な3分の1を大きく上回る215人が賛成票を投じて可決された。

訴追に賛成する署名者の筆頭は、大統領の長男のサンドロ・マルコス議員、最終署名者はロムアルデス議長。大統領のいとこだった。

暗黙の合意を反故にされた怒り

サラ氏がマルコス氏に大統領候補の座を譲る際の最低限の暗黙の合意は、政権がICCの捜査に協力しないことだったとみられる。そのカードを打ち捨てた今回の逮捕劇が政局に混乱をもたらすことは必至だ。

現在のところ、今後の手続きやドゥテルテ氏の身柄の行方など不明なことが多いが、南部ミンダナオ島を中心に根を張るDDS(Diehard Duterte Supporters)と呼ばれる熱烈な支持者らが強く反発することは間違いない。在任中に史上最高の支持率を誇ったドゥテルテ氏には今も政界はもとより、国軍や警察にも相当数の支持者がいる。

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