世界一幸福な社会は「お金で買える親密性」の賜物 『希望格差社会、それから』が描く日本のリアル

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親密性をお金で買うとは、乱暴にいえば“親密性を市場から調達する”ということ。さまざまなジャンル内で、それは実際に行われていることである。

日本で一番普及しているのは「接客を伴った飲食業」、つまり、クラブ、キャバクラ、ガールズバー、ホストクラブなどが代表例である。中でも、キャバクラは日本社会を特徴付ける業種といってもよいだろう。キャバクラを基準点として、その比較として、他業種が定義されるという傾向があるからだ。(171ページより)

お金で買われる親密性

近年は「レンタルフレンド」「レンタル恋人」などの業態も出てきているし、他方にはバーやスナックのマスターやホステス、飲み屋の大将や女将と親密関係をつくるというのも昔から存在してきたスタイルだ。いずれにしてもサービスを提供される顧客にとって、それらは「疑似恋愛」「擬似家族」としての役割を果たしている。サービスを提供する側は、相手が疑似恋愛を体験できるように「感情労働」をするわけである。

「好きな特定の対象に対してお金を使うことに喜びを感じる」ということでは、お金で買われる親密関係も、これらも広い意味での「推し」の一種に分類することもできる。(174ページより)

こうした変化のいくつかに対し、なんらかの違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれない。人それぞれ価値観が異なるのは当然だが、それでも目を背けるべきでないことはあるだろう。目の前に広がる現実世界との距離のとり方である。

リアルな世界で希望を持つことが困難であること、残念ながらそれは事実だ。しかし、だからといって「現実を変革しよう」「現実社会に対して反旗を翻そう」という方向に進めば解決するというものでもない。

バーチャル世界で満足している人が多いからこそ、「生活に満足している人」が増える。それが、経済が停滞しても、デモもストライキも起きず、犯罪も大きく増えない、日本社会が平和で安全な社会を保っている理由なのではないだろうか。(178〜179ページより)

日本は、現実の経済格差、家族格差が広まるなか、「バーチャル世界」で格差を埋めるというシステムの先進国になっているのではないかと著者は述べている。たしかにそうなのかもしれない。それが“ベストな状況”であるか否かは別としても、私たちは「バーチャルな世界で希望を見つけよう」とする人が増えていることも肯定する必要があるのだ。

印南 敦史 作家、書評家

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いんなみ あつし / Atsushi Innami

1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。「ライフハッカー・ジャパン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」「文春オンライン」などで連載を持つほか、「Pen」など紙媒体にも寄稿。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)、『先延ばしをなくす朝の習慣』(秀和システム)など著作多数。最新刊は『抗う練習』(フォレスト出版)。

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