NHKドラマ「脚本の完成前でも対価」に見る"覚悟" 連ドラ界を変える画期的な取り組みが始まった
3000万円はワケありのもので、それを取り返しにきた者の死に主人公が関与してしまったり、お金の返済のために闇バイト的なもので働かされたりと、主人公の倫理観が低めで自業自得なところもある。
主人公が決して悪を懲らしめる立場ではない。そこも面白さであった。そういう物語にしたのは、ハラハラ・ドキドキするドラマという目標設定が大前提。
NHKで『腐女子、うっかりゲイに告る。』など、新感覚のドラマを手掛けてきた上田さんは「あなただったらどこで本当に正しい選択ができますかという構成です」と説明する。
「人間は欲望を必ず抱えているものです。普段はそれを倫理観や道を踏み外すことへの恐怖が抑えつけています。『3000万』は、もしも抑えつけていた欲望が外に出てしまった場合、どうなるだろうかというシミュレーションドラマとしても体験していただけたのではないかと思います」
ちょうど放送中、闇バイト事件が世間を震撼させたこともあり、タイムリーすぎて、途中で修正を加えないといけないかもしれないという懸念もあったという。それだけ他人事ではない、まさに自分事として見る視聴者もいたのだ。
視聴者が「絶対ありえない」と思ってしまうとダメ
ただ、この手の、どんどん悪い方向に転がっていくストーリーは、単純すぎると見巧者には受けないこともある。
しかし、同作の場合、初期メンバー10人で7カ月かけて、海外ドラマの研究分析を行い、共通言語を構築し、4人に選抜されたあとも、9カ月かけて、全話、必ず4人の脚本家とプロデューサー、ディレクター全員で共有し、互いに読み、アイデアと意見を出し合い、それを取り込んでまたリライトして……その作業を繰り返して完成させただけあって、登場人物ひとりひとりが掘り下げられているし、関係性も複雑になっている。

WDRの企画の発案者であり、『だから私は推しました』 『鎌倉殿の13人』などの演出で高い評価を得ている保坂さん。アメリカ留学してドラマ制作を学んだ体験もある保坂さんが中心になって『3000万』の綿密な台本づくりが行われた。
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