しかし、ここで論じたのはそうしたことではない。アメリカでは生産できない、あるいは大変なコストがかかる。だから、アメリカは輸入するしか方法はないのである。面倒なリカードの議論を持ち出すまでもなく、明らかなことだ。
電子部品と自動車では事情が違う
一方、自動車の問題は性質が異なる。自動車はアメリカ国内での生産が可能だからだ。実際、今でもアメリカで生産が行われている。
ただし、アメリカ国内での生産は、賃金が高いなどの理由でコストが高くなっている。したがって、コスト面で輸入車に太刀打ちできない。これもリカード以前の問題(絶対優位の問題)である。
しかしながら、アメリカ国内には自動車会社が存在し、そこで働く労働者もいる。そして、その人たちはほかの分野には移れない。だから、非効率とわかっていても生産を続けようとする。
ここで輸入自動車に関税を課すと、海外の輸出メーカーが工場をアメリカに移すかもしれない。だから、確実ではないがアメリカの労働者の雇用が増える可能性がある。これも経済学以前の問題であり、政治的な問題である。日本の農業と同じ問題だ。
以上を考えると、現在の米中間貿易摩擦は1980年代の日米貿易摩擦とは性質が大きく違うことがわかる。
1980年代の貿易摩擦は、自動車などを中心にアメリカでも生産できるものに関してのものだった。それに対して電子部品は、先で述べたようにアメリカ国内でのサプライチェーンの再構築はほぼ不可能だ。それゆえ、アメリカ国内で電子部品の生産が増え、雇用が増えることはほとんど考えられない。
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