対中関税がトランプの首を絞める至極当然の道理 アメリカの労働者には百害あって一利なし

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しかし、ここで論じたのはそうしたことではない。アメリカでは生産できない、あるいは大変なコストがかかる。だから、アメリカは輸入するしか方法はないのである。面倒なリカードの議論を持ち出すまでもなく、明らかなことだ。

電子部品と自動車では事情が違う

一方、自動車の問題は性質が異なる。自動車はアメリカ国内での生産が可能だからだ。実際、今でもアメリカで生産が行われている。

ただし、アメリカ国内での生産は、賃金が高いなどの理由でコストが高くなっている。したがって、コスト面で輸入車に太刀打ちできない。これもリカード以前の問題(絶対優位の問題)である。

しかしながら、アメリカ国内には自動車会社が存在し、そこで働く労働者もいる。そして、その人たちはほかの分野には移れない。だから、非効率とわかっていても生産を続けようとする。

ここで輸入自動車に関税を課すと、海外の輸出メーカーが工場をアメリカに移すかもしれない。だから、確実ではないがアメリカの労働者の雇用が増える可能性がある。これも経済学以前の問題であり、政治的な問題である。日本の農業と同じ問題だ。

以上を考えると、現在の米中間貿易摩擦は1980年代の日米貿易摩擦とは性質が大きく違うことがわかる。

1980年代の貿易摩擦は、自動車などを中心にアメリカでも生産できるものに関してのものだった。それに対して電子部品は、先で述べたようにアメリカ国内でのサプライチェーンの再構築はほぼ不可能だ。それゆえ、アメリカ国内で電子部品の生産が増え、雇用が増えることはほとんど考えられない。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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