ロバート キャンベル氏に聞く「求められる人材」 多様な価値観の理解と課題解決への挑戦に期待

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日本文学研究者
早稲田大学特命教授
ロバート キャンベル
Robert Campbell 日本文学研究者。早稲田大学特命教授。早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)顧問。国文学研究資料館前館長。ニューヨーク市生まれ。1981年カリフォルニア大学バークレー校卒業、84年ハーバード大学大学院博士課程修了、92年文学博士。85年に来日、87年に九州大学文学部専任講師、95年に国立・国文学研究資料館助教授を経て、2000年に東京大学大学院総合文化研究科助教授に就任、07年から同研究科教授。17年に国文学研究資料館館長就任。21年4月から現職。近世・近代日本文学が専門で、テレビでMCやニュース・コメンテーターなどをつとめる一方、新聞雑誌連載などさまざまなメディアで活躍中。主な著書『戦争語彙集』(訳著書・岩波書店)など
グローバル人材の育成に対する社会の要請が高まっている。大学での教育も重要だ。これからの社会に、どのような人材が求められているのか。日本文学研究者で早稲田大学特命教授のロバート キャンベル氏に聞いた。

英語に加え、データサイエンスが必須のツールに 

——「グローバル人材」の必要性が指摘されています。カリキュラムに力を入れている大学も増えています。

キャンベル この10年ほどの間に、複数の大学で、英語などの語学や教養科目など、グローバル人材を育成するための優れたカリキュラムやプログラムを提供するようになってきました。それは非常に喜ばしいことだと思います。

ただし、これらの大学を卒業した学生が就職し、学んだことを生かせる社会になっているかといえば疑問もあります。とくに日本の企業や自治体では旧態依然とした人材採用・活用を継続しているところも少なくありません。最近になって「DEI(多様性・公平性・包括性)」を唱える企業も出てきましたが、女性の管理職登用などでは、欧米の企業に大きく水をあけられています。

「パーパス経営」で社員に寄り添った経営をする企業もあります。グローバル人材を受け入れ、長く活躍してほしいと考えるならば、その受け皿となる場を用意する必要があります。

——グローバル人材には、英語をはじめとする外国語力も不可欠だと思われます。“言葉の専門家”であるキャンベルさんはどうお考えですか。

キャンベル 言葉は人と人とのコミュニケーションに欠かせないツールです。その中でも英語は、世界の人たちと人間関係を築いていくために重要です。というのも、英語が母国語でない人たちが、研究の成果を発表したり、一緒にビジネスをする場では英語が共通言語として用いられるからです。多様な人たちとコラボレーションする際にも英語は使い勝手がいいのです。英語はツールにすぎませんが、そのツールを持つことによって、学びの選択肢が大きく増えます。

語学以外にも身に付けておくべきツールがあります。それはデータサイエンスです。私は根っからの文系人間でプログラムが書けません。私のパソコンの中にはこれまで長年蓄積してきた文献や言葉のデータがあるのですが、これらを計量分析する場合に、プログラムを外部の専門家にお願いして作ってもらう必要がありました。いわば他力本願です。

最近ではプログラミングの知識がなくてもデータサイエンスを学ぶことができるようになっています。自立的に判断ができるのです。これは大きな財産になります。何より、新たなものの見方を得ることで、課題の発見力や解決策の発想力にもつながります。

変化を恐れず挑戦し、社会を変える人材の輩出に期待

——グローバル人材には、海外を眺めるだけでなく、日本の地域などを深く見ることも大切だと思われます。

キャンベル そのとおりです。世界の人と出会い、渡り合うためには、自分は何者であるかという説明が必ず求められます。日本語という言語、宗教観、文化・自然に対する考え方などです。日本には豊かな文化と歴史があります。ところが、ビジネスの現場などでこれらを発信しようとする人は少ないですね。むしろ、大学卒業後に日本の歴史や文化に精通することは、趣味やお稽古事の世界になってしまいます。

日本には戦後80年近くにわたる平和憲法や国際協調の歴史があります。まさに共生のモデルがあるのです。自信を持って世界に出てアピールしてほしいと思います。

一方で、日本の地域は少子高齢化が進んでいます。これは大きな課題ではありますが、それでも欧州の国々に比べれば人口はまだ多い。地方都市でもイノベーションを起こし、新たな産業を生み出すことも可能です。若い人たちの行動に期待しています。

——地球環境の保全や人権問題など、SDGsに対応できる人材も不可欠だと思われます。日本が貢献するためにはどのような取り組みが求められますか。

キャンベル SDGsでは17の目標が掲げられていますが、二酸化炭素(CO2)排出量の削減などのマテリアリティー(物質的な課題)を掲げることだけが目的ではありません。

広く世界を見れば、多様な歴史、文化を持つ国や地域があります。そこで、AかBかという二項対立ではなく、お互いの価値観を尊重しながら、どうやれば課題の解決につながるかを検討し、実行する、それが共創です。国際協調を支える立ち位置として日本の存在感は高いと思います。

——最後に、日本の大学生や大学教育への期待をお聞かせください。

キャンベル インターネットの発達に伴い、大量の情報が簡単に入手できる時代になっています。これから世界で活躍できる人材には、これらの大量の情報をふるいにかけ、正しい情報、間違っている情報を見分けるリテラシーが大事でしょう。そのためには、語学力、ITの活用力も必要になります。

「これが社会の常識だから」と空気を読んだり忖度(そんたく)したりせず、時には相手とぶつかり合っても自分の意見を言い、やりたいことをやってほしいですね。変化を恐れず挑戦し、社会を変えてくれる人材が日本から輩出されることに期待しています。