人はなぜ身分と学歴をまとう者にだまされるのか フランス超エリート校の廃止が持つエリートの意味

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フランスは、共和政体をとったことで、全国津々浦々をパリと同じように均一化していく。地方の若者も、グラン・ゼコールを出さえすれば、トップエリートの座につくことができるようになる。こうして近代の学歴エリートによる政治の支配が生まれる。

廃止されたグラン・ゼコール

その中でもとりわけ影響力が大きかったエリート中のエリートこそ、通称ENAと呼ばれる国立行政学院である。この学校は、ナポレン時代ではなく、1945年の戦後に設立された新しい機関だ。

わずか100人足らずしか入学を許可されないエリート中のエリート校である。将来の大統領候補である政治エリートはここで培養され、若くして地方自治体や企業などの幹部となり、フランスを支配していく。

フランスの県知事は、選挙制によって選ばれる市長とは違い任命制である。大統領によって任命されたエリートが県政をつかさどる。こうして中央エリートが全県を統制するシステムが成立する。

しかし、マクロン政権のもと、このエリート養成機関であるENAの廃止問題が議論されることになった。そしてとうとう2021年、ENAは廃止された。しかし、学歴貴族がなくなったわけではない。

その廃止をめぐって行われた議論の中心は、ENAへの入学が特定の階層に独占されているということであった。

「学歴貴族」は、ピエール・ブルデューの『遺産相続者たち:学生と文化』(石井洋二郎訳、藤原書店、1997年)の文化貴族たちを意味し、家柄エリートしか知りえない文化資本(音楽や文学などの趣味)がないと入学できないというのである。

確かに面接が重要視される試験においては、それとなく醸し出す立ち居振る舞いで合格は決まる。

フランスのエリートがもつ身分制時代の貴族的気風は、こうして学歴主義の時代になっても残存していったというわけである。

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