“イケア帝国”を一代で築いた男
イングヴァル・カンプラードとその経営哲学

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そして、イケアの品質管理を支えているのは、エルムフルトにある「イケア・テスト・ラボ」。ここは、開発中の商品にさまざまなテストを行い、安全性や耐久性をチェックする施設だ。家具テスト部門、化学試験部門、テキスタイルテスト部門、コンポーネント(部品)部門、パッケージテスト部門に分かれ、イケア独自の厳しい基準と販売国ごとに異なる安全基準をクリアするようにテスト項目が配されている。

機械で荷重をかけて強度、安全性、耐久性を徹底的に調査。これらの耐久テストに合格したものだけが、イケアの商品として店頭に並べられる

たとえば、テキスタイル部門では、何百回も洗濯して耐久性をチェックするほか、可燃性や摩耗も調査。家具部門では、荷重をかけて強度や安全性、耐久性を調査している。いすならば背もたれに30キログラム、座面に100キログラムの衝撃を与えるテストを2万5000回も行っているのだという。

サステナビリティは、イケアの真骨頂とも言える。今でこそ、先進国では地球環境に配慮したビジネスがもてはやされるが、数十年前までは大量生産大量消費で経済を回していたはずだ。一方、イケアを生んだスモーランド地方では、何百年も前からものを無駄にしない文化があり、それがイケアの商品開発にも生かされているという。

創業者が退いても、成長は続く

デモクラティック・デザインを世界に発信する場として、昨年からエルムフルトで開催されているのが「デモクラティック・デザイン・デー」。第2回目となる今年は、5月12日に行われ、ペーテル・アグネフィエルCEOをはじめ各部門の責任者が登壇。世界各地から200を超えるメディアが集まる盛況ぶりだった。

しかし、この場に創業者であるカンプラードの姿はない。というのも、彼は数年前に経営の第一線から退き、現在はシニア・アドバイザーとして後進の育成に力を注いでいるからだ。

一般的に、創業者がカリスマ性を持っていればいるほど、二代目社長以降の経営は不透明になる。そのためカンプラードは、強固な組織づくりを目指すとともに、イケアの精神を社員たちが共有することを重視してきた。たとえば、カンプラード一族で取締役に就任できるのは多くても一人だけだ。このことで、イケアはカンプラード家のものではないことを内外に知らしめ、有能な社員の登用が促進されている。また、毎年、各国イケアの管理職はエルムフルトで行われる研修に参加し、会社の歴史や製品に対する考え方からスモーランド地方の文化まで、イケアが育んできた理念を学ぶという。これらが奏功してか、カンプラードが退いた今日のイケアの売上高は、依然として成長軌道に乗ったままだ。

「何よりも私は謙虚であることに最大の価値を置いている」

かねてからカンプラードはそう社員に語り続けている。この価値観がイケアに浸透し続ける限り、イケアの成長は続くのかもしれない。