“イケア帝国”を一代で築いた男
イングヴァル・カンプラードとその経営哲学
展示場を設け、高品質の家具に実際に触れてもらい、さらに商品を掲載したカタログを作成して配ることで人々を展示場へと呼び込んだのだ。価格と質で勝負するために考え出したこのスタイルは、当時としては画期的だったこともあって大反響を呼び、5年後には初めてのイケア店舗がスウェーデン南部のエルムフルトにオープン。これは、店舗販売と通信販売を行う今日のイケアのスタイルにつながっている。
デモクラティック・デザインとは
スウェーデンの小さな町の家具屋が世界的な成功を収めたのは、カンプラードの才覚はもちろんだが、彼が掲げたコンセプトがグループ全体に根付いているからにほかならない。中でも最も端的にカンプラードのアイデンティティを表しているのが、イケアの理念である「優れたデザインと機能性を兼ねそなえたホームファニッシング製品を幅広く取りそろえ、より多くの方々にご購入いただけるようできる限り手ごろな価格でご提供すること」だ。
そして、この理念を現在に受け継ぎ、具現化したものが「デモクラティック・デザイン」だ。デモクラティック・デザインには以下の5つの基準項目が定められており、基本的にこれらの要素をすべて満たしたものだけが商品としてイケアの店頭に並ぶことになる。
この基準を順守することで、イケアは「デザイン性の高いものは高価」「低価格のものは品質が悪い」という従来の常識を打ち破り、低価格と機能性、高品質を同時に実現している。
だが、それだけの商品を毎年コンスタントに生み出すのは容易ではない。ニーズの調査や素材の吟味に始まり、製造工程のコスト削減、デザインの改良、機能性の追加、品質検査を繰り返して、ようやく5つの基準項目を満たす商品になる。そのため、商品の中には5~10年かけて開発されるものもあるという。
では、その開発プロセスを具体的に見てみよう。イケアの商品開発は、「ホームビジット」と呼ばれる家庭訪問調査からスタートする。これは、一般家庭を訪問し、人々の生活習慣を調査してニーズを掘り起こす作業のこと。開発部門のスタッフは年間何千軒もの家庭を訪れており、調査結果を分析し、商品開発に生かすという。
ソファ一つとっても、座るためだけではなく、寝転んだり食事をしたりして使う習慣の国もある。日本では床に座ってソファを背もたれにして使うこともある。各国の文化や習慣を、商品に機能として落とし込む必要があるのだ。