そのような独身男性は希少かつモテやすいので、より若い女性を結婚相手に選ぶことも少なくない。30代半ば以降の女性の場合は、婚活市場では「10歳若いときの自分」と競合していると考えるとわかりやすいだろう。そこで賢い千恵さんが選んだのは「恋愛経験皆無」の隆志さんだった。
「ただスーンと生きていた」彼に芽生えた気持ち
「新宿で会うことになって驚きました。タイプの違う飲食店を3つも候補として挙げて選ばせてくれたからです。すごくスマートで、気遣いもできる人だなと思いました。しかも、有名私立大学卒の正社員。女性とお付き合いをしたことがないのが不思議です」
万馬券を引き当てたかのように喜ぶ千恵さん。一方の隆志さんはやや照れくさそうにしながら穏やかに笑っている。千恵さんに言わせれば、自己肯定感が著しく低い男性。母親に過干渉されながら育ったことが原因のようだ。
「母はいい人ではあるのですが、『あれやれ、これやれ』と私や姉をコントロールしたがる人なんです」
付き合い始めてから千恵さんが驚いたのは、ある映画作品の話になったときに隆志さんが「それは親から見させられたよ」と言ったこと。娯楽の王道である映画を「見させられる」というのはどういう環境なのか。
「世間的に『いい』とされるものを子どもに強制する親でした。今では私も映画好きですが、若い頃は映画が大嫌いでしたね」
ちなみにその作品は『ショーシャンクの空に』。無実の罪で収監された主人公の脱獄を描いた秀作ではあるが、ひどい暴力シーンもあり、子どもに勧めるような内容ではないと思う。隆志さんの母親はアカデミー賞などの評判だけで判断したのだろう。しかも、それで息子は映画嫌いになってしまった。滑稽ともいえる悲劇だ。
「大学生の頃は女友達はいましたが、恋愛までする意欲はなかったです。就職して仕事を淡々とやりつつ、『自分なんてこの世にいてもいなくても何も変わらない。誰からも必要とされていない』と思っていました。悲観しているわけでもなく、ただスーンと生きていたんです」
しかし、親から離れて一人暮らしを続けていると、隆志さんの中にも人間らしい気持ちが少しずつ芽生えた。人生を楽しくするのもつまらなくするのも自分次第なのだ、と。
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