法改正と評価制度から考える資産価値の維持 築年数に負けないマンション管理の重要性とは

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横浜市立大学 国際教養学部 教授 齊藤 広子氏
横浜市立大学 国際教養学部 教授 齊藤 広子
築古マンションが増加する中、建物の老朽化と居住者の高齢化という2つの老いに直面しているマンションの管理組合も少なくない。管理不全を防ぎ、区分所有者不明住戸の増加などに歯止めをかけるため、区分所有法の改正議論が進捗中だ。安全で快適な住まいの環境をつくっていくためには、どのような管理が望ましいのだろうか。マンションをめぐる問題に詳しい、横浜市立大学の齊藤広子教授に聞いた。

国土交通省のデータによると、築40年以上のマンションは約125.7万戸(2022年末時点)。10年後には約2.1倍、20年後に約3.5倍に増加する見込みだ(国土交通省「マンションに関する基礎データ」)。建物の老朽化と居住者の高齢化という2つの老いを背景に、所有者不明住戸の増加や管理不全などが懸念されている。

こうした課題に対処するべく、マンションの円滑な維持・管理・再生を推進するために「区分所有法」の改正に向けて議論が進められている。

齊藤広子教授は、改正法の条文の詳細は未定と前置きしたうえで、「区分所有者の責務が明確になるだろう」と見解を示す。

「例えば、区分所有法改正で決議要件が緩和されたとしても、すべてのマンションが管理規約を変更する必要はありません。ミニマムな条件が変わったとしても、従来の決議要件で運営できていれば問題ないわけです。マンションは多様化していますから、それぞれに最適な選択をすることが望ましいでしょう。そのためにも、区分所有者が主体的に管理規約の見直しなどの議論に参加する意識を持つことが重要です」

今後は、マンションの保有には管理の責任が伴うことを、よりいっそう自覚する必要があると指摘する齊藤教授。マンションの管理業務を管理会社に委託している管理組合が大多数だが、意思決定の責任は管理組合に帰属することは変わらない。

「管理会社はあくまでも管理をサポートする立場であり、意思決定権は管理組合に帰属します。『マンション管理は民主主義の学校』と言われることがありますが、さまざまな隣人とコンセンサスを取り、結論を導かなければなりません。管理組合の中には、豊かな暮らしが100年続くマンションを目標に掲げ、そこから逆算して管理規約や長期修繕計画を策定しているケースもあります」

評価制度の活用で意識を変える

築年数の古いマンションでも、適切に管理されていれば、建物の価値が保たれるだけでなく、住まいとしての快適性の確保にもつながるだろう。実際、22年4月に「マンション管理適正評価制度」がスタートして以来、風向きが変わったという。

「専門家に管理状態や管理組合運営の状態を6段階で評価してもらい、その評価を公開するものです。管理の質が可視化され、市場価値の維持や向上にもつながるでしょう」

齊藤教授は、評価制度の活用によって外部に向けて良好な管理状態をアピールでき、さらには、長く住みたくなるマンションを目指して区分所有者が一致団結する機会にもなると話す。

「区分所有者は多様な価値観を持っているため、管理の質の捉え方もさまざまです。しかし、マンション管理適正評価制度で審査される30項目を満たすことをゴールに設定することで、何を改善すればよいのかを議論する指標としても有効活用できます」

また、適正な管理は、「住んでよかった」という満足感にもつながるだろう。「マンションは、管理組合員である複数の住民が知恵を出し合い、問題解決に取り組むことができます。その積み重ねが何か事が起きたときに助け合う共助の精神を育むことにつながります」と齊藤教授。「マンションは管理を買え」と言われる時代、区分所有者の管理に対する意識の向上が求められている。