イオン、24年問題対応を超えた「物流改革」構想 物流責任者が次世代物流構想のすべてを語った

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投資はハード面にとどまらない。卸との連携強化も進めていく。

業界全体にいえる課題だが、日本では卸業者さんの配送網が発達しており、われわれ小売業の物流は卸さんに任せきりな側面がある。そのため小売りが物流を考えるときは店舗とセンターの間に限られるし、卸さんからしても卸の拠点からわれわれのセンターまでしか関与できない。こうした状況で各プレイヤーが個別最適を試みても、それが必ずしも「全体最適」になるとは限らない。

各段階で「安全係数」が働いている

これは2024年問題対応の話にもつながるが、小売業はどうしても特売や天候などによって毎日の物量が変動しやすい。当社の物流センターの担当者にすれば、「もしトラックが足りなかったら大変」と考えて、余分にトラックを手配する。食品に関しては発注の確定から配送までの時間が短いため、この傾向が特に強い。確定情報を待たずに経験則に頼った配送計画を組む必要があり、余裕のある配車計画になりがちだ。

同じような現象は卸さんでも起こりうる。サプライチェーンの各段階でこうした「安全係数」が働いていることも、社会全体で物流リソースの逼迫を起こしている一因だ。

こうした日本型物流の課題をどう克服するか。カギを握るのがデータの共有だ。発注情報や需要予測、倉庫の在庫状況などのデータと連動した配送計画をAIが策定し、サプライヤーにもそれらの情報を随時共有する体制を整えていく。各プレイヤーが小売りの動向を早期に知ることができ、かつ確実性の高い情報を基にプランニングできるので、サプライチェーン全体の物流の無駄を減らしていけるだろう。

ーー具体的にはどう進めていきますか。

2024年問題対応でさえ、地方会社の現場からは「これはどうするの」「あれはどうするの」といろいろな意見が出た。今後、全国のイオンに横展開する中で、こうしたトライアンドエラーは出てくるだろう。

スーパーの物流は運ぶ量が多く、時間的な制約も強い。そんなスーパーの物流を変える難易度は非常に高い。同じグループであっても、「新システムが組み上がりました。絶対うまくいくのですぐにこれに切り替えてください」みたいなことはありえない。

そのような中で改革を進めるには、各社の経営のイニシアチブが必須だ。ただ、経営層には物流に造詣が深くない方もいる。各地域の経営者とプロジェクトの進捗を確認し、目線を合わせてもらうため、昨年は出張だらけの1年だった。そういった努力は今後も必要になってくると思う。

ーー2000年代の物流構築以降にグループ入りした事業会社の中には、いまだにイオンの物流網と統合できていない企業もあります。そうした企業との関係も今後の焦点になりそうです。

私が以前在籍したユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスなど、独自の物流網を使い続けている子会社の店舗は全体の3割弱程度だ。一気に統合を進めて、その会社の良さが損なわれてしまっては意味がないので、今後も共通化を強制するつもりはない。

ただ個人的には将来的に統合していくべきと考えている。20年前に物流と同時に改革を進めたプライベートブランド「トップバリュ」は、現在ではどの事業会社からも活用したいと要請されるグループの求心力になっている。物流も有無を言わせないくらい合理的な仕組みをつくれば、今後外部環境の厳しさが増す中でグループ全社に活用いただけるはず。難易度は高いが、その分挑戦する意味は大きいと思っている。

冨永 望 東洋経済 記者

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とみなが のぞむ / Nozomu Tominaga

小売業界を担当。大学時代はゼミに入らず、地元密着型の居酒屋と食堂のアルバイトに精を出す。好きな物はパクチーと芋焼酎。

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