住宅のCO2を削減するには「窓ガラス」から 政府も補助金で、住宅の省エネ対策を後押し

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「2050年カーボンニュートラル」の達成に向け、CO2排出量の削減が大きなテーマになっている。さまざまな分野で取り組みが求められているが、中でも注目されているのが住宅だ。既存住宅をより断熱性の高い住宅に改修することでCO2削減効果が期待される。大規模なリフォームをするのではなく、特定の居室の窓を替えるだけでも大きな効果があるという。政府も窓の改修に対し補助金を出す住宅省エネキャンペーンを始めた。この機会を利用したいところだ。

窓を替えることでCO2削減に大きな効果

「家庭部門におけるエネルギーの約4分の1が冷暖房で消費されます。このため、窓ガラスを替えるだけでCO2削減の大きな効果が見込めます」と、日本の板ガラス製造業者の業界団体である一般社団法人板硝子協会 建築普及部 建築技術部部長の池田直輝氏は語る。池田氏は、機能ガラス普及推進協議会 事務局長も務める窓ガラスのプロフェッショナルだ。

一般社団法人板硝子協会 建築普及部 建築技術部 部長 池田直輝 氏
一般社団法人板硝子協会
建築普及部 建築技術部 部長
池田 直輝氏

「とくに、窓に『エコガラス』を採用することで夏はより涼しく、冬はより暖かく過ごせます」

エコガラスとは、ガラスを複数枚使う複層ガラスの一種である。ガラスとガラスの間に空間を設けることで、外気と室内の熱の移動を防ぎ、また、エコガラスの内側に特殊な金属膜がコーティングされていることにより、熱放射率をさらに下げる効果がある。熱の出入りを防ぐ「断熱性能」と、日射熱を遮る「遮熱性能」を高く備えているのが大きな特徴だ。それにより、冷暖房器具の利きが改善され、CO2の削減にもつながるわけだ。

「エコガラスの一般的な名称は、『低放射=Low Emissivity』なガラス、すなわち『Low-E複層ガラス』ですが、板硝子協会ではよりなじみやすい『エコガラス』の呼称を使用しています。そして、エコガラスの上位グレードに当たるのが『エコガラスS』です。エコガラスSの断熱性能は、単板ガラスの約5.4倍※1で、それに伴い約29%のCO2削減効果※2が見込まれます」というから驚く。

既設住宅の単板ガラスをエコガラス、エコガラスSに交換・装着したときのメリットは、CO2削減効果だけにとどまらない。例えば「結露」の問題解決にもつながる。冬場は窓の周辺が結露しがちだ。隣接する壁や床、カーテンのカビの原因となり、木材部の腐食につながるほか、空気中にカビが舞えば、ぜんそくやアトピー性皮膚炎などを引き起こす可能性もある。これを防ぐためには、頻繁に結露を拭き取る作業が必要だが、エコガラスを利用すれば、冷たい外気が室内側に伝わりにくくなり、結露が大幅に減り、そのような作業も軽減される。

池田氏はさらに「今日の超高齢化社会を踏まえ、窓ガラスの性能が健康にも影響を及ぼします」と指摘する。

近年、夏場の猛暑が続いていることから、室内にいても高齢者が熱中症になるケースが増えている。高齢者は冷房をつけるのを我慢してしまったり、おっくうになってしまいがちだ。

逆に冬場はヒートショックの心配がある。ヒートショックとは、暖房の利いた部屋から寒いトイレや浴室に移動するといった温度の急な変化によって、血圧が乱高下したり脈拍が変動する現象で、とくに高齢者の、浴室での溺水、心筋梗塞、脳内出血、大動脈解離などで亡くなるケースも増えている。断熱性の高いエコガラスにより部屋間の温度差が小さくなれば、このようなリスクの低減が期待できる。

「とくにご高齢の家族がいらっしゃるご家庭では、ぜひ、窓ガラスをエコガラスやエコガラスSに替えていくことを検討していただきたいところです」と池田氏は強調する。

政府も断熱性の高い窓ガラスへの交換を補助金で支援

エコガラスを導入したいと考えていても、その費用を懸念する人もいるだろう。また、既存住宅をリフォームしようとすると、その間の仮住まいの用意も必要になる。それに対して池田氏は次のように答える。

「既存住宅すべての窓をエコガラスに替えるには相応のコストがかかりますが、一部の居室の窓をエコガラスに替えるだけでも快適性は大きく変わります。例えば最初は滞在時間の長いリビングから、次に寝室へと広げていくのも1つの方法です。また、改修についても、窓枠ごと交換すると一定の工事期間がかかりますが、既存の窓にエコガラスを使った窓を重ねるように『内窓』を設置する方法もあります。この場合、工事は早ければ半日で完了します」

費用については興味深いニュースもある。政府はカーボンニュートラルの実現に向け、「住宅省エネ2024キャンペーン」をスタートさせた。これは家庭部門の省エネを強力に推進するため、住宅の断熱性の向上や高効率給湯器の導入等の住宅省エネ化を支援する4つの補助事業の総称で、そのうち「子育てエコホーム支援事業」「先進的窓リノベ2024事業」では、エコガラスなど断熱窓への改修を行った人に対して補助金を支給する。

住宅省エネ2024キャンペーン

例えば「先進的窓リノベ2024事業」では、住宅の建て方、設置する窓の性能と大きさ、設置方法に応じて1戸当たり5万円から最大200万円までが補助される。キャンペーンを国土交通省、環境省、経済産業省の3省が合同で行っているのも大きな特徴だ。予算も「子育てエコホーム支援事業」に2500億円、「先進的窓リノベ2024事業」に1350億円が組まれている。

「『住宅省エネキャンペーン』は昨年も実施され多くの方に利用されました。好評のため、今年度も実施されることになりました。ただし、これらの予算は年度ごとであり、上限があります。昨年は年度末を待たずに予算が消化されました。今年も多くの申請があると思われます。早めの申請をお勧めします」と池田氏は話す。工事によっては、地域の市区町村の補助制度と併用できる場合もあるので、事前に調べておくといいだろう。

「近隣の窓ガラス取扱店やリフォーム会社では、補助金の対象となるエコガラスの種類や工事費の概算、申請の方法などについてサポートしてくれるので相談してみるといいでしょう」と池田氏が話すように、できるだけ早い段階から検討を進めたいところだ。

※1 「エコガラスS」ガス入りダブルLow-E三層複層ガラス(中空層厚み9ミリ×2)の場合。断熱性能は、日本工業規格JISR3106およびJISR3107に基づく試験で算出された熱貫流率にて表示
※2 暖冷房設備に係るCO2排出量(kg-CO2/(戸・年))は、消費電力量「0.435kg-CO2/kWh」(環境省・経済産業省が令和5年1月24日に公表した電気事業者別排出係数(特定排出者の温室効果ガス排出量算定用-R3年度実績-)の一般送配電事業者(沖縄以外)の調整後排出係数)を乗じて算出