組織の未来を変えるマインド醸成の秘訣とは? 社員起点のイノベーションを支援する日本総研
優勝アイデアには具現化のために予算1000万円を提供
日本総研は、中期経営計画で経営基盤強靭化に向けた人材戦略を「JRIトランスフォーメーション」と名付け、社員のイノベーティブなマインド醸成を目指して毎年内容をアップデートしている。中でも、社員の自発的な行動や挑戦を後押しするカルチャーの創出は大きなテーマに位置づけられており、その一環として創設されたのが「イノベーションコンテスト」だ。具体的な内容について、運営事務局の眞形淳史氏(人事部所属)は次のように説明する。
「全社員の文化・マインド・行動を変革させるアイデアを募るコンテストです。アイデアの内容や応募できる対象社員については制限をかけず、全社員が投票できる体制を取っています。投票で選ばれた上位5つのアイデアを発案したメンバーが、社長をはじめとした審査員に直接プレゼンテーションし、優勝のアイデアを決定します。プレゼンテーションの様子は全社員に公開され、会場参加およびライブ配信の視聴が可能です。優勝するとアイデアの具現化に向けた予算として、会社から1000万円が提供されます」
日本総研は仕事を通して常に新しいものを生み出してきたが、イノベーションコンテストは社員の自由意思から動き出す取り組みのため、業務とは一線を画している。あくまでも、ゼロからイチを創るカルチャーを根付かせる戦略の一部だ。応募のアイデアは業務改善にかかわるものから、オフィスの環境を改善するものまで幅広いという。運営事務局の川島沙恵氏(経営企画部所属)は、こう総括する。
「日本総研はITの会社ですので、比較的多く集まるのはシステムやアプリ関連のアイデアです。例えば、2020年はチャットツールで『ありがとう』などの気持ちをイラストのステッカーを使って送れるアイデアが優勝しました。2021年は身近な課題を内製化によるシステム開発により解決する『JRI IoTラボ』を設立し内製開発を推進する提案が優勝し、現在も活動を続けています。2022年はインフォーマルなコミュニケーションを促進するなど、より働きやすいオフィスを目指すアイデアが採用され、オフィス改革プロジェクトとの協働に発展しました。社員のマインドにアプローチするアイデアや部門を超えた取り組みが評価される傾向にあると思います」
社内ポータルの特設サイトや、社内のデジタルサイネージでコンテストを告知。コンテスト初開催から20件以上の応募があり、年々増えているという。
「最初は、自部門の業務に関連するアイデアの応募が多かったのですが、年を追うごとに全社に通用するアイデアが増えている印象です。それは、社員の所属やライフステージにかかわらず、全社員がメリットを享受できるアイデアを生み出そうという視座に変わってきた証左だと捉えています」(眞形氏)
飲んだ水の量を可視化、優勝アイデア誕生の舞台裏
2023年9月に実施された第4回のイノベーションコンテストでは、「1日に飲んだ水を可視化するアプリ」というアイデアが優勝した。受賞者の高野裕子氏とMATSUMORI ANASTASIA 氏は、SMBCグループのDXをシステム企画・開発の立場から推進、支援するチームに所属している社員だ。
高野氏は保険業界でビジネスアナリストとして活躍。ビジネスの要件を整理し、システムの開発者に伝える仕事でキャリアを積み、アジャイル開発でシステムを構築できる環境を求めて2023年5月に日本総研に入社。MATSUMORI氏はクリエイティブな仕事を志し、フリーランスのウェブデザイナーを経験した後、大きなチームで仕事をしたいと多国籍な人材が活躍する日本総研に魅力を感じ、2021年に入社した。
同僚からイノベーションコンテストについて聞いた高野氏はMATSUMORI氏と、同時期に進めていたプロジェクトのシステム開発メンバーを誘い4名でアイデアを出すことになった。アイデアの種になったのは、MATSUMORI氏の経験だという。
「在宅勤務を活用するようになったことで、体重が増加しました。いろいろなスポーツやダイエットにトライしても続きませんでした。そこで、毎日2リットルの水を飲むようにしたら、短期間で体重が減り、肌や髪の毛の状態がよくなったんです。水は健康にいいことを体感したので、それを広めたいと考えました」(MATSUMORI氏)
アイデアの柱は大きく2つ。1つはウォーターサーバーと個人のスマホを連携し、毎日飲んだ量を自動的に記録するという機能を実装したアプリを開発。もう1つはウォーターサーバーの利用に伴うペットボトルの削減量、CO2削減量を可視化することを提案。社員の健康とサステナビリティの意識向上を同時にかなえるアイデアとして評価された。イノベーションコンテストに参加した意義について、2人は次のように語る。
「普段の業務では所属部署とのコミュニケーションが中心となっていました。イノベーションコンテストを通じて部署の垣根を越えた交流を持てたことが私にとって意義深いものでした」(高野氏)
「年齢も職種も違うチームメンバーの意見を受け入れ、優勝という目標にたどり着くための最善策を検討する力が身に付きました。同時に他者から学ぶことの重要性を実感しました。また、たくさんのアイデアがあっても、期日に間に合わなければ意味がありません。何を優先的に選択するべきなのかを考える経験を積むことができました」(MATSUMORI氏)
ボトムアップで日本総研のカルチャーに風穴を開ける
現在「1日に飲んだ水を可視化するアプリ」は、実用化に向けてチームで検討しているフェーズだ。社内の健康管理室と協業し、社員に健康に関するメッセージを通知する機能の実装を目標にするなど、健康経営を推進する会社の方針も取り入れたアプリ制作に磨きをかけている。
日本総研のイノベーションコンテストを通して、社員のチャレンジに対する意欲の高さだけではなく、生まじめな面もうかがえたという。眞形氏はこう振り返る。
「業務が多忙な中でもしっかりとアイデアを練り、スライドを作り込んでプレゼンテーションに臨んでくれる社員の多さに驚きました。また、最終選考のプレゼンテーション前に会場を下見したり、プレゼンテーションの方法を細かく検討したりと事前準備を突き詰めていて、真摯にコンテストに向き合っているところが日本総研らしいと感じました」
川島氏も次のように続ける。
「専門性と多様性を併せ持っているところが日本総研の特徴だと思います。日本総研にはITソリューション部門のほかに調査部や創発戦略センター、リサーチ・コンサルティング部門もあり、SMBCなどグループ企業からの出向者もいます。バックグラウンドが異なる社員がたくさん存在しており、一人ひとりが尊重し合いながら知識と経験のシナジーを楽しむ風土が日本総研の魅力だと思います」
眞形氏は、今後はさらに社員のチャレンジ、会社の変化を後押ししていきたいと話す。
「とくに社員に還元される制度は、トップダウンで決めるだけではなく、ボトムアップで会社に声を上げることが重要です。イノベーションコンテストを通じて、社員の声がトップに届くことが認知されました。今後はコンテスト形式にとらわれず、自身の手で会社を変えたいという社員を増やす取り組みを展開していきたいと考えています」(川島氏)
一人ひとりのチャレンジをアシストし、イノベーションの風土をつくっている日本総研。個の活躍を促す舞台を用意することで、さらに強い組織へと成長を遂げているようだ。