社会の要請に応える高等教育の注目トレンドとは 少子高齢化の中で成長分野を担う人材養成が加速

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デジタルテクノロジーの急速な進化や脱炭素化社会に向けた取り組みなど、世界が大きな変貌を遂げようとしている中、新時代を担う人材を養成する大学にも、さまざまな変化が見られる。大学を取り巻く環境の変化や学部の新増設について、大学通信 取締役情報調査・編集部部長の井沢秀(いざわ・しげる)氏に解説いただいた。

――井沢さんが注目している大学の動向について教えてください。

大学通信 取締役情報調査 編集部部長 井沢秀氏
フラットな視点で、
現在の大学、高等教育を
見ていただきたいですね

大学通信 取締役情報調査・編集部部長
井沢秀氏

井沢 まず1つ目は、DXやGXというキーワードに象徴されるような、社会のデジタル化や環境負荷削減という要請に対応する理系教育です。文部科学省は、デジタルや環境など成長分野の人材を育成する理工農系の学部を支援する「大学・高専機能強化支援事業」を開始しました。

2023年7月には、公募の選定結果が発表され、67大学の学部新設や再編の支援が決定しました。そこでは、新しいデータサイエンス系の教育をはじめ、これまでにない高等教育の変化が見受けられます。

少子高齢化が進展する中で、デジタルテクノロジーや環境領域といった成長分野を担う人材養成は、国力の維持のために不可欠です。デジタル系人材でいえば、社会のニーズを読み解いてシステムやサービスの構想を描く人、プログラミングなどの設計領域、そしてオペレーションなどと、それぞれの領域で人材が足りていません。

大学によって育成する人材のタイプは異なるものの、大学の使命としてデジタルや環境といった社会からの要請に対応する流れは歓迎すべきことでしょう。

女子学生の大学進学率が過去最高に

もう1つ注目しているのは、「女子学生の学部志向の変化」です。文部科学省の学校基本調査によると、2022年の女性の大学進学率は53.4%で、1954年の統計開始以降、過去最高となりました。

社会に出て自立したいという女性のニーズに対応するため、入試に女子枠を設けたり、従来は男子学生が多数を占めていた大学や学部でも女子学生を対象とする取り組みが増加しています。

もちろん、こうした女子学生の学部志向の変化に対応しているのは女子大学にも見られます。女子大学の中には男女雇用機会均等法以前から女性の就職支援のノウハウをためており、面倒見のよさが特徴となっているケースもあります。

また、女子高校の教員と話をすると「女子だけの教育環境で学びたいという学生は多い」「男子がいるとリーダーシップを取りづらい」といった声は根強くあります。そうした女子学生が一定数おり、女子大学も要請に応えて変化をしている状況は好ましいですね。

いわば、女子学生の変化にさまざまな大学が対応し、それが女子学生の選択肢を増やしているともいえるでしょう。

教育研究環境の拡充、就活支援など「面倒見のよい大学」に

――18歳人口の減少についてはいかがでしょうか。

井沢 それが、3つ目のポイントにつながるのですが、選ばれる大学になるためには優秀な人材をいかに養成しているのか、が重要な柱になると考えています。そして、在校生を満足させられる教育研究の環境を提供できているのか、も大切です。「在校生の満足度向上」は、大学の在校生が高校生に対する広報活動で大きな影響を与えますから。

在校生が出身高校の先生に大学の感想を伝え、それを聞いた先生が生徒の進路指導に役立てることは多々あります。大学に対する満足度が高ければ高いほど、在校生からポジティブな感想が伝播していきます。基本的なことではありますが、大学は学生が満足する教育機会や就活などの支援を提供する、つまりその大学は学生を丁寧に育てているかが問われているといえるでしょう。学生の満足度の高い大学は、総じて教職員の連携が取れていると感じます。先生と職員の連携がしっかりと取れていると、おのずと面倒見のよさも向上します。

――新増設の学部・学科や大学院の最新状況や傾向、魅力を教えてください。

井沢 冒頭にお伝えしましたが、デジタル人材の育成に関しても動きが活発で、産業界の変化に応じた学びのニーズをいち早く捉え、独自のカラーを打ち出している大学は増えています。また、医療、看護、リハビリテーションの分野は労働需要が高く、人材不足が続いているため、人材養成に乗り出す大学が増えています。

社会から要請される人材は変化していきます。新しい領域の人材養成について、既存の枠組みで対応できない場合、新しい学部や学科、学問領域をつくっていくことで大学はこれからの社会の変化に対応できる人材を養成していく。そうしなければ社会はよくなっていきません。こうした流れの中に、大学の新増設の取り組みが位置づけられていると考えています。

変化を続ける高等教育をフラットな視点で

――保護者も、新しい動きを知る必要がありますね。

井沢 受験生については偏差値ありきではなく、学びたいことありきで大学を選ぶ傾向が徐々に見られるようになったので、学部選びの選択肢が増えることは歓迎されるべきことだと思います。

一方、保護者の立場からすると、かつてご自身が学生だった頃とは学部の名称はもとより教育内容、就活をはじめとする大学の学生サポート体制などが様変わりしていることがあることに驚かれるのではないでしょうか。ご自身の学生時代の体験や印象から判断するのではなく、フラットな視点で、現在の大学、高等教育を見ていただきたいですね。