M&A成功の鍵 デューデリジェンス、条件交渉、PMIの再検証
特別講演Ⅰ
富士フイルムの経営改革
富士フイルムは、写真関連事業中心の事業構成から、オフィスドキュメント関連事業や産業用途・ライフサイエンス事業などを中心にする事業構成に大きく転換してきた。古森氏はそうしたデジタル化の経緯を説明し、成長事業に経営資源を投入することに加え、新規事業の創出を掲げて、化粧品や医薬品事業などに参入してきたと語った。そのためにM&Aを行ってきたことを「山を1合目からではなく5合目から登るためだった」と表現した。
2000年以降、同社が重点事業分野でM&Aに投じた資金は約7000億円。同社がそれまで持っていなかった技術や製品を獲得したことで、シナジーを発揮しながら事業構成の転換に成功。これを同社は「第2の創業」と位置づけている。そしてその結果、07年には売上、利益が過去最高となった。
そのうえで古森氏は、「企業改革を成功させるには経営者の正しい舵取りやそれに応える社員の努力、そして蓄積された資産などを生かすことが大事」だと指摘した。「改革を実施するには経営者の強い意志とスピード、ダイナミズムが重要。将来を読み、構想し、明確なメッセージを伝え、断固として実行し、そして成功させなければならない」とした。
最後に古森氏は昨年、同社が新中期計画を発表したことに触れ、「自ら変化をつくりだす企業として、21世紀を通じて発展し続ける企業を目指す」と結んだ。
基調講演Ⅰ
クロスボーダーM&A戦略
─グローバル成長実現のためのクロスボーダーM&Aの活用と成功の要諦
日本のM&A件数は11年から再び増加傾向にあり、金額ベースでクロスボーダーM&Aは年々拡大し、案件の規模も大型化している。今や日本企業は米国に次いで世界第2位の買い手になっている。そうした現状をデータに基づいて紹介したうえで、西谷氏は「海外M&Aがうまくいかない」という相談が多いと指摘し、日本企業が陥りやすいパターンとして、ビジネス、コミュニケーション、戦略という三つの「不在」を挙げた。そして、本社主導で現地法人が蚊帳の外に置かれ、目標を押し付けられていること、M&Aを成立させること自体が目的化されていることなどを例示した。
そしてM&A成功の要諦として、連続性の担保、責任の明確化、価値観の共有の3点を挙げた。連続性の担保には、買収後を見据えたプレディールを実行し、相手企業との違いを認識することなどが必要になる。責任の明確化では、誰が何に対してどう責任を果たし、それをどう評価するのかということをオーソライズすることが大事になる。価値観の共有では相手企業も含めてゴールのイメージを統一しておくべきだとした。さらに「過去のM&Aを振り返るべき」と強調し、その際、「結果の善し悪しではなく、その結果を導いたメカニズムを解明することや、個人の責任を追及しないことなどに注意すべき」だとした。
「このように振り返ることで気づきが得られ、課題のメカニズムがわかれば処方箋もできる。その結果、意思決定のスピードが増し、精度が上がり、M&Aの成功率も上がる」と西谷氏は結論づけた。