すべての人材が「データの利活用」を学ぶべき理由 現場DX推進のヒントは「自分ごと化」にあり
事業成長に必要な「2タイプの人材像」
政府が唱える「デジタル田園都市国家構想」で、2026年度までに地域課題の解決をリードするデジタル人材を230万人確保する目標が打ち出されるなど、DX推進に関わる人材に対する社会的要請が高まっている。デジタル技術を業務改善や事業成長に生かせる人材を育成する動きが各企業や大学などで加速する中、DXを前進させるためにはどのような人材が必要なのか。NECの祐成光樹氏は2つのタイプに定義できると説明する。
「1つは、IT部門などでデジタルの実装や運用の役割を担う『DX専門人材』。もう1つ欠かせないのが、データやデジタル技術を活用し、ビジネスを発展させる『DX推進人材』です」
DXという言葉が世間に浸透し始めた当初は、高度な技術や専門性を基に、全体のシステム構築を担う専門人材が中心となってプロジェクトが進められていた。しかしデジタル化の進展によって、ビジネスモデルの変革が進む現代では、デジタルの知見を持ち、現場の声を受け止めながら最適なシステム構築の提案を行う推進人材がフロントに立ってリードすることが求められている。
DXを加速させる2タイプの人材の協働について、祐成氏はとくに現場実務に関わる推進人材の「主体的な学び」が重要だと話す。
「DXを正しく事業や組織の改革につなげるには、現場の課題を正確に捉えることが第一。それを実現するためには、経営者から現場の営業、エンジニアといった実務に携わる人材が主体的に学び、デジタルリテラシーを習得することが大切です。とくにDXによって得られる膨大なデータの価値を理解し、新しいビジネスにつなげられる人材は、今後組織の発展と変革を担うキーパーソンとなるでしょう」
企業を変革する「データサイエンスの力」
デジタルというツールをテコに、ビジネスパーソン一人ひとりが積極的に学ぶ姿勢と、ビジネス変革を目指すマインドが重要だと強調する祐成氏。さらに、近年注目されているデータサイエンスの知識や実務への活用も、幅広いビジネスパーソンに求められるスキルの1つだという。
「企業の正体は突き詰めて考えると『ビジネスに関する判断と意思決定を日々繰り返している組織』といえます。企業の中には、その判断と意思決定を『経験・勘・度胸』に委ねているケースもあるしれません。しかし、それでは判断や意思決定をプロセス化することができず、そのビジネス判断が間違っていた場合に反証ができず、的を射た改善が困難です」
データサイエンスを学ぶことは、データから価値を引き出し、ビジネス成果を最大化するための武器になると祐成氏は話す。
「まず、大前提としてデータが示す内容を読み解く力は必要です。プラスして、仮説の検証から結果の実装、それを現場で活用するための理解獲得といった一連のプロセスに対応できる力を身に付けること。これこそ、企業の意思決定に好影響をもたらす源泉であり、データサイエンスを学ぶ最大の意義だと思います。
『データを利活用する力』はデジタル時代を生き抜くために、すべてのビジネスパーソンが習得すべきものです。自身や組織の成長、そしてさまざまなデジタル人材との協働で新しい価値を生み出すために、主体的に学びの場に身を置くことがこれからは求められると考えます」
データサイエンスというワードの響きには、テクノロジー寄りの専門職や理系のイメージが付きまとうが、祐成氏は「文理融合の領域だと捉えるべき」と力を込める。また、全社一丸となってDXを推進するうえで有効な組織づくりについて、こう説明する。
「組織づくりはまず、部門ごとに実験的なDXプロジェクトを実施することから始まります。次の発展期には、部門横断でDXを推進する専門組織を設置し、本格的なDXプロジェクトを遂行。最後の成熟期には、それぞれの部門でDXが進むように、専門組織に集めたメンバーが各部門にリーダーとして戻るのが一連の流れです。NECでもデータサイエンスの知見を生かし、顧客への提案や実証を経験したメンバーを、各部門に戻して配置しています」
成熟期には、DXの専門組織と各事業部門がシームレスかつクイックに提案の座組みを組み、顧客へスピーディーな提案を実現できるようになったという。
DX推進人材活用のカギは「愚直さ」にあり
データで意思決定のプロセスを改善できるのは、特定の部門に限る話ではない。営業やマーケティングなどデータの活用が業務の質向上に直結する部門はもとより、総務や人事などバックオフィス部門でもデータサイエンスの知見は大いに活用できるだろう。
「DX推進人材の育成は終わりなき旅」と表現する祐成氏。データサイエンスを含むデジタルに関する知見を身に付けた人材を事業成長へつなげるためには、目的に沿った戦略の策定と、トライ&エラーを繰り返すことが重要だと話す。
「まずはDXの実現に、どのような人材をどう活用するのかという戦略を明確にすることが重要と考えます。次にDXの浸透に際しては、リテラシー教育からOJTなどの実践教育を経験することも大切です。そしてナレッジの共有や、コミュニティでの支援といった継続的な学びの場を用意し、つねに知識をアップデートできる体制を築くこと。成功と失敗を重ねながらこのプロセスを愚直に回すことが、遠回りに見えてDXを強化するいちばんの近道です」
全社員のデジタルリテラシー向上を基本戦略に盛り込む企業が増えている中、牽引役となるDX推進人材を適材適所で活用することは、企業にとって今後重要な課題となるだろう。祐成氏は、オールラウンダーとして活躍しているDX推進人材には「コミュニケーション力があり相談相手が多い」「現場を意識して仕事を進められる」など、共通した特徴があるという。まずは、こうした人材を発掘することから始めるのも、1つの手段だろう。
データの可能性を最大限に引き出し、柔軟な発想でビジネスに生かせる人材が、官民をはじめとするあらゆるセクターで活躍する未来に期待したい。