再生可能エネルギー比率を高めて地方を活性化 元気な日本を実現するための取り組みを提言
できるだけ早く再エネへの転換を進めるべき
――世界的に脱炭素化の機運が高まっていますが、日本における進捗をどのように見ていますか。
小宮山 残念ながら遅れています。再生可能エネルギー(以下、再エネ)への転換がなかなか進んでいません。それは再エネでやっていけるのかという真剣な議論がないまま、現状を維持することをよしとしてきたからです。
化石資源から再エネに転換するには一定の時間がかかります。しかし、できるだけ早く再エネへの転換を進めるべきです。
――実際に、再エネだけで必要なエネルギーを賄うことはできるのでしょうか。高コストを懸念する声もあります。
小宮山 再エネはコストが高いというのは誤解です。私は1999年に『地球持続の技術』(岩波書店)という本を出しました。この頃は確かに、太陽光発電など再エネのコストは高かったのです。発電量もわずかでした。しかし、技術の進歩などにより再エネの供給規模は急速に拡大し、コストも安くなりました。
――再エネの変動の問題はどのように解決できるのでしょうか。
小宮山 確かに再エネは変動が大きいですが、水力、バイオマス、地熱は安定的な発電が見込めます。とくに日本では地熱発電が有望です。蓄電技術のコストも世界的にはずいぶん安くなりました。さらに太陽光発電については、住宅の屋根や農地などを活用することで発電総量を大きく増やすことが可能です。
住宅の屋根はまだ手つかずと言ってもいいくらい少ないですし、田んぼや畑もソーラーシェアリングにより発電装置を置く余地はたくさんあります。稲などの生育への影響についても、最近の研究では田んぼの上に30%ほどの面積で太陽光発電の架台を設置しても生育にほとんど影響がないという結果が出ています。ここで注目すべきは、同じ面積でお米だけを生産するのに比べて、電気の売電収入は4倍、合わせて5倍もの収入になることです。再エネによって大きな収入が得られるのです。
「脱炭素」の取り組みが地方を活性化させる
――地球温暖化の防止が人類共通の課題となっています。企業にも「脱炭素」が求められるようになっていますが、どのような取り組みを進めるべきでしょうか。
小宮山 脱炭素を実現するためのキーワードは3つ。「再エネ」「省エネ」「炭素固定」です。
「再エネ」「炭素固定」については一般の企業が自社だけで行えないこともありますが、「省エネ」に関しては比較的容易に始めることができます。暖房に使っている燃料や照明に使っている電力を減らすことで省エネを行うのです。といっても、寒い日に暗い部屋で我慢をしろというわけではありません。北海道や東北辺りの古い日本家屋では、年間3000リットルも暖房用の灯油を使いますが、これを高断熱住宅にリフォームすると800リットルと約4分の1になります。
私が2003年に新築した自宅は、窓はすべて複層ガラス、壁は発泡断熱材を吹き付け、屋根には太陽光パネルを設置しています。省エネ技術を結集していることから「小宮山エコハウス」と呼ばれるほどです。使う電気の6割を太陽光で賄っています。エネルギー使用量はそれまでと比べ8割減となりました。
――一般家庭だけでなく、企業にとっても省エネであれば取り組みやすく、メリットも多そうです。
小宮山 「脱炭素」というと先進的な大手企業がやるべきものと考える経営者もいるかもしれませんが、中堅・中小企業でもやれることはたくさんあります。例えば、地方の旅館などで伝統的な家屋だった場合、窓を複層にするだけでも、空調にかかる光熱費を大幅に削減できます。照明をLED(発光ダイオード)にしたり、空調機器を高効率のものに替えたりするだけでも、大きな効果が見込めます。初期投資もすぐに回収できます。できるところから進めるといいでしょう。
――「脱炭素」に取り組むことで日本経済にとってどのような効果が期待できるでしょうか。
小宮山 「脱炭素」は日本経済、とくに地方の活性化につながると思います。というのも、日本は石油や石炭、天然ガスを輸入するために年間30兆円ものお金を使っています。再エネの比率が高まり、エネルギー自給が高まれば、そのお金が国内に流れるのです。とくに再エネを生み出す場は、農林漁業を行っている場所と重なります。農林漁業の生産額は酪農を含めて年間12.4兆円(2020年)です。再エネと合わせれば、3倍以上になります。つまり、農業や林業、漁業などの地域の第一次産業が活性化します。今、これらの産業では後継者不足が大きな課題になっています。しかし、「脱炭素」によってお金が地方に回るようになれば、都会の若者もここで働きたいと思うのではないでしょうか。地方の再生のためにも、再エネなど「脱炭素」の取り組みを推進すべきです。