2023年、創域理工学部・先進工学部が始動 分野を超え連携・融合できる理工系人材育成へ

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2023年、東京理科大学が大きな進化を遂げる。55年の歴史を持つ理工学部が「創域理工学部」へと名称を変更し、10学科中7学科が新名称となる。一方、「先進工学部」は2学科が新設され5学科体制となり、学びのフィールドをさらに広げる。両学部の学部長に、注目すべき再編の核心と人材育成への思いを聞いた。

10学科が共に響き合い新たな領域と価値を創造

なぜ理工学部から創域理工学部になるのか。その理由について伊藤浩行学部長は、「本学部は創設当初から理学と工学を融合した新しい科学技術をつくることを理念としてきました。そして今、10学科が共に響き合い、新たな領域と価値を創造していくという学部の特徴を明確に表すため、創域理工学部への名称変更を決定しました」と明言する。7学科についても、それぞれの教育・研究の特色を明快に示す名称に変えるという。

東京理科大学 理工学部長 伊藤浩行
東京理科大学
理工学部長
伊藤 浩行

東京理科大学の理工学部は、現在の10学科により、数学、物理などの基盤的分野から、データサイエンス、環境、エネルギー、防災、医療や宇宙などの横断的分野まで、理学・工学のほぼすべての分野をカバーしており、伊藤学部長は「その強みを生かす連携や融合教育研究を進化・深化させてきました」と、学びの特徴を紹介する。そうした中でとくに注目されるのが、2017年度にスタートした「6年一貫教育コース」と「大学院横断型コース」で、「6年一貫教育コースは学部教育と大学院修士課程を一体化し、後半の3年間は研究に打ち込めるようにしています。また大学院では、学んでいる専門分野を極める専門深化型と、自分が専門とする研究室に所属しながら、他の分野の研究との共創により知見と視野を広げる分野横断型が選べます」と紹介する。とくに大学院横断型コースは、異なる専門分野の人間と関わる機会が増えるため、学生が自らを高める大きな機会にもなる。まさに実社会において不可欠な、多様な人材と協調する力を着実に身に付けられるのだ。

融合教育が育成する幅広い視野を持った人材

この「共に響き合う」学びは1年次からスタートし、入学後は全員が10学科の多様な専門分野とその関係性を理解する「創域特別講義」を受講。さらに、異なる学科の学生で構成された少人数グループでのディスカッションを通し他学科の思考法も体感する。「そのうえで、数学、物理学、化学といった理学と工学の基礎となる『専門基礎教育』が共通化され、学生は横断的な研究に必要な共通言語を身に付け、各学科の専門科目を学ぶのです」(伊藤学部長)。そして、4年次から修士課程にかけては、融合研究を行う横断型コースや分野を超えた研究を本格的に体験する「創域融合特論」が用意されている。

こうした10学科が「共響(きょうめい)」する創域理工学部が育成を目指す人材像について伊藤学部長は、分野横断型であっても専門深化型であっても、「融合教育により卒業生・修了生は新たな分野を切り拓き、新たな価値を創造し、挑戦していくという創域の概念を身に付けています」と強調。「例えば教育者になったときにも、理工学の多様な分野が社会にどう役立っているかを理解し、自分の専門教科だけでなく幅広い視野で俯瞰的な見方ができる人材が育つのです」と自信をうかがわせる。

都心と筑波研究学園都市の真ん中に位置し、緑豊かな広大な敷地にリサーチキャンパスと呼ばれる充実した教育・研究施設が集結する「野田キャンパス」から、来春新たな知の創域が始まる。

イノベーションを加速するNEW先進工学部がスタート

先進工学部も、「電子システム工学科」「マテリアル創成工学科」「生命システム工学科」の3学科体制から、23年度に5学科体制へと進化する。その狙いについて田村浩二学部長は、「本学部の研究領域をより広げるため、物理学の論理を現実社会に応用することでイノベーションを起こす人材育成を目指した『物理工学科』が加わります。さらに、少子高齢化という社会課題に対応し、QOL(生活の質)やWell-being(社会的幸福)を引き上げ、豊かな人生のサポーター育成を目指した『機能デザイン工学科』を新設します」と紹介する。

東京理科大学 先進工学部長 田村浩二
東京理科大学
先進工学部長
田村 浩二

物理工学科の研究領域を具体的に見ると、物質科学、複雑科学、エネルギー科学、ナノデバイスの4つが掲げられており、現代物理学とテクノロジーによりイノベーションを生み出し、社会に役立てる学びが特徴となっている。一方、機能デザイン工学科はメディカル機能、知能認識、運動ロボティクスの3分野を研究領域としており、田村学部長は「この3つの柱で多角的にアプローチすることで、これまでにない『ヒトのカラダを助ける工学』を築き上げていきます」と明言する。

先進工学部のある葛飾キャンパス自体がイノベーションキャンパスと位置づけられており、2つの新学科を加えた5学科が連携・融合することで、多彩なイノベーションの創造がさらに加速されるのだ。

デザイン思考を身に付け課題発見力・解決力を自ら培う

また、今回の学部再編で注目されるキーワードが、イノベーション創出の有力な手法である「デザイン思考」だ。「デザイン思考には5つのステップがあり、まず共感することから始まります。そして、その情報を基に、問題を定義し、概念化して試作したものを検証していきます。新たな先進工学部では1年次に「デザイン思考入門」を全学生の必修科目とし、グループワークも行うことで、前例のない問題や未知の課題にアプローチし、最善の解決策を探っていく力を培っていきます」(田村学部長)。

機能デザイン工学科の紹介HP
機能デザイン工学科の紹介HP

デザイン思考はまさに実社会で求められる力であり、そうした教育ができる背景には先進工学部の各学科で行われている分野を統合した連携・融合がある。基礎科学領域でベーシックな論理的思考を身に付ける一方で、先端工学の知識とノウハウを獲得し、そこからイノベーションを導き出すうえで重要なのがデザイン思考であり、学生はそれをしっかり学ぶことができるのだ。

新体制の先進工学部が育成する人材像について田村学部長は、「単に革新的な技術を創造するだけではなく、社会との接点をつねに意識しながら人々のQOLの向上に寄与すること、またそれを可能とする人材の育成を目指します」と強調する。地域と共生する葛飾キャンパスから、新たなイノベーションが生まれようとしている。