「見せかけだけでは?」SDGs批判は正当なのか リサイクル分野でこそ日本企業の強みが生きる
SDGsはブームではない
――SDGsの過熱ぶりは一過性のものですか。それとも定着していくのでしょうか。
村上 SDGsは世代や性別にかかわらず認知されていて、一過性のブームではない実感があります。積極的なのは上場企業ばかりではなく、資金調達のほか、SDGsへの取り組みをファン獲得や採用活動につなげている企業も多い。事業戦略を考えるうえでSDGsを意識しない経営者はいないのでは。
――近年見られる変化はありますか。
村上 食品ロス問題や、プラスチック製ストローの取り扱い減少など、日常生活に直結する実践が増えてきました。目に見える分、取り組みやすいのでしょう。直近では、国際情勢を背景に16番の「平和と公正をすべての人に」が注目されています。SDGsを切り口に国際情勢に問題意識を持ち、深掘りして知るようになった20代も多い。
――一方で、「見せかけだけではないか」との批判も聞かれます。
村上 CO2削減のように定量化しやすいテーマとは違い、定性的なものは効果の裏付けが難しい。完璧主義で批判を恐れ、実践することを躊躇している企業もありますが、過度に心配する必要はありません。SDGsの解き方に「正解」はなく、ゴールに向かって多様なアプローチがあっていいはずです。
人的資本の形成に役立つ
――日本企業がとくに注目すべきテーマは。
村上 14番「海の豊かさを守ろう」は身近なゴールでしょう。実は、温暖化の影響などで日本の藻場は減少しています。海藻はCO2を吸収する"ブルーカーボン"としても重要。関連する取り組みが増えそうです。長年前進しないのが5番「ジェンダー平等を実現しよう」。技術者の女性比率はいまだに低いままですね。教育とも絡む問題ですが、女性がもっと工学系に進学し、企業も女性エンジニアを積極的に採用するようになれば、ジェンダー平等の実現に一歩近づくのでは。
――逆に、日本企業の強みが生きる分野はありますか。
村上 12番「つくる責任 つかう責任」にひも付く、リサイクル分野は日本の強み。昔は大量生産・大量消費が一般的でしたが、今はリサイクルを重視する企業が多く、最初からリサイクルしやすい素材を使って事業を行うという発想も生まれています。こうした流れから、1つのものをメンテナンスしながら長く使う、ヨーロッパ型のサーキュラーエコノミーも注目されています。もちろん大量生産モデルにも、幅広い層に商品を行き渡らせるという社会的意義がありますから、議論が一段と深まることが期待されます。
――経営者が意識すべきことは。
村上 ステークホルダーはもちろん、自治体や大学、スタートアップ、NPO、地域住民などさまざまな立場の人と対話することが大切です。藻場再生の話もそうですが、地域の課題は世界的なトピックとつながっていることが多い。いきなり巨大な壁に立ち向かうことは難しくても、地域の課題を切り口にすることで突破口が見つかるでしょう。対話の機会を社員に提供することも重要です。SDGsを通して社外の人と共に問題解決を図る機会は、人的資本の形成に寄与し、中長期的に業績にもいい影響を与えるでしょう。