アスゼロのクラウドSaaS&CSコンサルで改革を CO2の見える化・削減の「その先」へ――

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今、気候と技術を掛け合わせたクライメートテックとして急成長を遂げているスタートアップがある。2019年創業のアスエネだ。CO2排出量の「見える化から削減・オフセット・報告」を一貫して行うクラウドサービス「アスゼロ」で注目を集め、今年4月にはシリーズB 1st closeで総額18億円の資金調達を発表。企業が避けて通れない脱炭素経営の課題を、同社はいかに解決するのか。アスエネの代表取締役CEO西和田浩平氏に話を聞いた。

CO2排出量の情報開示は難しい

2021年6月、東京証券取引所はコーポレート・ガバナンスコードの改訂を発表。プライム市場とスタンダード市場で、気候変動に対する取り組みについて、TCFD※1やCDP※2などの国際的な枠組みに沿った情報開示が定められた。

「CO2の削減とその情報開示は企業価値に関わる重要なもの。しかし、プライム・スタンダード市場の約8割の企業は取り組み方を理解していないのが現状です。一方、大企業はすでにサプライチェーン全体でのCO2削減を進めており、取引先にも再生可能エネルギーの使用やCO2削減への動きを求めています。日本政府も24年からサプライチェーンの一次データの取得・回収を要請する方針を発表しました」

アスエネ代表取締役CEOの西和田浩平氏
代表取締役CEO
西和田 浩平氏

そう話すのはアスエネ代表取締役CEOの西和田浩平氏。情報開示の難しさはどこにあるのか。

「まず自社のCO2排出量を算出する方法を知らない企業がほとんどです。最初は表計算ソフトで管理する企業もありますが、取引先の出張や通勤、投資やリースでのCO2排出量を含めたScope3※3まで考慮すると計算はかなり複雑。一般的に、算出には約6カ月かかります」

独自の管理では人為的な計算ミスや操作ミスも避けられず、データの信憑性や正確性を担保しづらい。さらに、算出のルールや計算に用いる排出原単位※4、排出係数※5は毎年アップデートされるため、これらの情報を正確にキャッチアップするには相当な労力がいるという。

自動算出とコンサルで業務工数を最大70%削減

アスエネの「アスゼロ」は、こうしたCO2排出量の算出をサポートするクラウドサービスだ。その特徴は、CO2をはじめ温室効果ガスの排出量を自動算出して「見える化」し、さらに将来のCO2削減目標の設定、進捗の管理、CO2クレジット※6の管理などができる点にある。

アスゼロのダッシュボードのデモ画面
画像を拡大
アスゼロ画面中央円グラフ:Scope別GHG総排出量
上表:Scope別GHG総排出量3カ年比較

「例えば電気料金やガス料金の請求書をアップロードするとAIが画像を認証し、適切な排出原単位や排出係数を用いてCO2排出量を自動算出します。従来6カ月かかる作業が約6週間で完了するので、最大70%の業務効率化になるのです。とはいえ、そもそも『必要な情報がどれだかわからない』という企業も多いですよね。そこでアスエネでは各社にまず勉強会を実施し、『なぜ脱炭素に取り組むのか』から説明します。そしてScope1〜3のどの段階のどの項目まで算出するか、誰がどの情報をどのように収集するか、という具体的なフローも共に検討していきます。システムの導入後もCS担当が定期的にオンライン面談などでサポートする点は、お客様にフレンドリーなサービスだと自負しています」

さらにアスゼロは、CO2排出量の削減やオフセットの提案・指導もしてくれる。

「例えばEV車(電気自動車)の導入や、物流の動線の最適化などを提案しています。また、原材料の輸入先次第で輸送時のCO2排出量が変わるため、費用対効果を考慮した適切な購入先を探すことも提案できます」

この6月には再生可能エネルギー事業やバイオマス燃料を手がける兼松と業務提携し、具体的なソリューション提供にも用意がある。それでも削減が難しい企業には、アスゼロが直接J-クレジットや非化石証書などのCO2クレジットを販売する。

国際的な枠組みに基づき情報開示を支援できる独自のノウハウ

加えて特筆すべきは、TCFDやCDPなどの国際的枠組みに沿った情報開示の支援だ。ここにも、アスエネならではの強みがある。同社は日本で唯一、高水準のコンサルティングを行う企業としてCDPの気候変動コンサルティングパートナーに認証されているほか、CDPのスコアリングパートナーも務める企業だ。国内の上場企業の取り組みをCDPのメソッドに基づいてスコアリングする中で、企業の取り組みが適切に評価される情報開示のノウハウが豊富に蓄積されている。CDPでAランクなど高評価を受けて企業価値を高めたい顧客にとっては心強い存在だろう。

「他社のサービスのほとんどが、『システム導入』『コンサルティング』『CDPレポート作成支援』のいずれかに限定されており、企業はCO2排出量の算出から報告までに複数社と契約しなければなりません。しかし、各担当者それぞれとミーティングをして個別に提案を受けていては、追加の金銭的コストや複数のコミュニケーションコストがかかるほか、各所で混乱を招きかねません。その点、アスゼロは脱炭素経営のサポートを一元的に担えるため、費用対効果が高くなります」

TCFDとCDPのロゴ
TCFDやCDPなど国際的な枠組みへの報告にはそれぞれポイントがあり、書き方次第で同じ実績でも評価が下がることもあるという

次世代によりよい世界を残すために

各金融機関も、サステナブルファイナンス※7の観点からアスエネに強い関心を寄せる。

「約30の金融機関と連携して融資先へのアスゼロ導入を進めています。現在、非財務情報のルールが徐々に厳格化され始め、今後は監査制度も始まるといわれる中、例えばあおぞら銀行では、第三者による国際認証を取得したアスゼロの算出であればCO2排出量の正確性が高いとして、サステナブルファイナンスにおける第三者機関の検証プロセスをスキップできます。アスゼロの導入によって、企業は第三者検証のコストをかけることなく低金利で融資を受けられるのです」

種々の企業と連携しサポートの幅を広げるアスエネ。22年4月には18億円、9月には追加の資金調達を行った。

「私たちのミッションは、"次世代によりよい世界を"残すことです。われわれは、子どもたちの代で課題がより明確になり、社会的インパクトとなる事業にしか取り組みません。同分野は世界で130兆円の潜在市場があるとされています。国内でもトップを誇る資金調達額を優秀な人材の採用やマーケティングに生かし、アジアトップを目指していきます」

人口が集中するアジアは、環境対策に大きな需要がある一方で競合はまだ少ない。世界で勝ち抜くポテンシャルを持つアスエネの動向に、ますます期待が高まる。

※1 金融安定理事会(FSB)が設置した民間主導の気候関連財務情報開示タスクフォース。「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4項目の情報開示が推奨される
※2 環境への影響を管理するためのグローバルな情報開示システムを運営するNGO
※3 Scope3は原材料の製造や輸送、製品の使用や廃棄など、サプライチェーンの上流・下流で排出されるCO2排出量。なお、Scope1は自社の事業活動により直接排出されるCO2排出量。Scope2は電気など他社から供給されたエネルギー使用により間接的に排出されるCO2排出量
※4 一定量の生産物を生産する過程で排出されるCO2排出量
※5 電力会社が電気をつくるために排出したCO2量を表すもの。電力会社ごとに毎年公表され、温室効果ガス排出量の算出時に用いられる
※6 CO2の排出量に、再生可能エネルギー、省エネルギー設備の導入、森林による吸収・管理などの削減・吸収量を割り当てることでCO2を相殺するもの
※7 気候変動をはじめ、社会的課題の解決に資する金融