「再生」を見据えるマンションに価値がある理由 弁護士が解説「高経年マンション」のあり方
廃墟を未来に残さない「再生」視点の管理
――今、注目されている高経年マンションの課題とは?
実は今後、都市問題や環境問題となりうる課題です。近年では、都市直下型地震などによる建物の倒壊や損傷リスクは深刻に捉えられるようになってきました。そうした中で、マンション管理組合は、どのように対策を講じるか考える必要があります。
一方で老朽化しても建替えや修繕の意思決定をしてこなかった高経年マンションも少なくない。区分所有者の高齢化や、賃貸に出す人が増えたことなどから、管理組合の理事のなり手がいなくなるケースも増えています。また、区分所有者が高齢化することで、疾病などにより意思決定できない組合員が増える可能性も出てきました。
しかし、管理組合には区分所有者本人以外は基本的に介入できません。そうなると、管理組合が修繕や再生などを決定できない状況に陥るおそれもあります。そのまま、高経年マンションが空き家になって放置されれば外壁の剥落などささいなことをきっかけに、付近の地域の暮らしや治安に悪影響が及ぶんです。
これは、地域の環境を荒廃させかねません。
それらを防ぐことを目的に2つの法改正が行われ、2022年4月1日に施行されました。1つ目が「マンション建替円滑化法」です。不良ストックやその予備軍となりそうなマンションを除却(取り壊し)することを目的とし、その認定対象の拡充、団地における敷地分割制度の創設など、マンション再生の円滑化を図っています。
ただ、マンションの区分所有者が適切なタイミングで再生できるように仕組みをつくる必要があります。そこで2つ目の「マンション管理適正化法」によって適正な管理を促し、マンションの不良ストック化を防ぐ取り組みを進めています。
持ち家マンションの資産価値を向上させる
――「マンション管理適正化法」の改正では何が変わったのでしょうか。
地方公共団体と管理組合の責務が強化され、マンション管理適正化推進計画制度や管理計画認定制度が始まりました。管理組合が地方公共団体に申請したマンションの管理計画が一般に公表され、市場に流れるようになったんです。
――適正管理の実施は、区分所有者にとってどんな意味を持つのでしょうか。
適正に管理されているマンションが評価され、その評価が市場価格に反映される仕組みができたといえます。これまで中古マンションの評価に修繕や管理の状況は反映されてきたとはいえませんから、責務のみ大きく感じてきた区分所有者もいたかもしれません。
しかし、そもそもマンションの区分所有者にはマンションを所有する「権利」と「義務」があります。この改正によって、義務を果たすことで所有するマンションの価値を向上させる助けになるはずです。言ってみれば、区分所有者にとって、「マンションを適正に管理することは資産価値を上げること」となりつつあります。
いずれ必ず訪れるマンションの「再生」に備えて
――区分所有者はマンションの適正管理に当たり、まず管理計画を策定する必要がありますね。
マンションの区分所有者が最も検討すべきことの1つが、修繕や改修などにかかる費用の捻出です。その中で最もコストがかかるのが「建替え」。多くの管理組合では修繕などを見据えた積み立てをしていますが「建替え」の時期がわかっていれば、修繕や改修を含む、さまざまな費用も見積もりやすくなります。何より、いつかは「建替え」の時が来ると意識し、再生を見据えた計画を立てていくことが重要です。
――マンションの「再生」をスムーズに行うために大切なことは何でしょうか。
マンションの建替えは単なる再建築ではなく、まちづくりにも関わる「再開発」です。多額の解体費用と建設費用がかかります。そのため、スムーズな再生にはデベロッパーの助けを得ることも欠かせません。とくに都心と郊外の両方で実績を持つ事業者はさまざまなノウハウを持っていますから、まずはそうしたデベロッパーやコンサルタントに相談してみるといいでしょう。合意形成から建替えまで、専門的な観点からしっかりサポートしてくれるデベロッパーを選定することが大事です。
加えて、法整備も年々進んでいますからつねにアンテナを張っておくことでよりスムーズな建替えを実現できるはずです。改正法は、マンション区分所有者がマンション所有の義務を果たしながらも、最大限に所有するマンションの権利と価値を享受できるようにすることを目指しています。そのことはマンション自体のライフサイクルを健全化するとともに、都市や環境を守ることにもつながるでしょう。