分譲マンション「築40年」の壁はプロと乗り越える 「建替え」で、財産としての住まいを守るには?
経験者も専門家も少ないマンションの建替え
103万戸。国内の築40年以上経過した分譲マンションの数だ。その数は2030年に231万戸、40年に404万戸※1と増えていく。現時点で築40年を超えたマンションの多くが、現在の耐震基準に満たないことに加え、老朽化による安全性や快適性の低下など、さまざまな課題を抱えている。修繕で対応できる場合もあるが、建替えが必要なケースも多い。
しかし、建替えが実現した事例は2004年までで87件、21年まででも263件と少ない※2。こうした中、40件以上のマンション建替え実績を持つのが旭化成不動産レジデンスだ。同社のマンション建替え研究所 所長の重水丈人氏は高経年マンションについてこう語る。
「私たちは2001年に同潤会江戸川アパートの建替えに参画して以降、いくつもの建替えに携わってきました。高齢化や社会情勢の変化に伴って課題は多様になり、今後も複雑な課題を抱える事例が増えると予想しています」(重水氏)
ほとんどの人にとってマンションの建替えは初めての経験。「どこから手をつけたらいいかわからない」「どこに何を聞けばいいかわからない」という人も多い。そこで、同社が情報発信窓口として11年に設立したのが、「マンション建替え研究所」(以下、研究所) だ。
「研究所では、高経年マンションに関わる法改正の状況や建替えの実例調査をはじめ、さまざまな情報発信をセミナーやカタログなどを通じて行うほか、建替えに関心を持つマンションの管理組合からの相談や質問に応対しています」(重水氏)
多くの人が関わるマンションの建替えだが、一般的に課題として挙がるのが、区分所有者の合意形成の難しさだ。
「建替えは区分所有者の財産に関わる大きなこと。10年後の建替えを見据えた相談があったり、数年前に資料請求があった人から再度連絡がきたりと、さまざまなフェーズの方から問い合わせをいただきます。マンションごとに抱える課題は異なるため、教科書的な解決方法はありません。そうした中で、私たちは区分所有者お一人ずつに話を聞いて、課題の抽出から整理、意思決定をサポートします。場合によっては、ご相談者のマンションについて『建替えか・維持していくか』の選択肢を専門的な観点で提示してきました」(重水氏)
安全なまちづくりを見据え、前例のない建替えを実現
高経年マンションの増加を受けて法整備も進みつつある。研究所では時代の変化に応じ、その都度適した建替えフローを構築している。こうした積み重ねにより、建替えが難しいとされていたマンションに、新たな制度や法律を適用して建替えを実現した「第1号事例」をいくつも成功させてきた(表1)。その1つが、東京都調布市の「調布富士見町住宅」だ。研究所 副所長の花房奈々氏はこう説明する。
「1971年に分譲された『調布富士見町住宅』には2つの大きな課題がありました。1つは周辺の土地よりも容積率が低く定められていたこと。もう1つは、敷地内を公道が通っていたこと。そのため、⼟地の活⽤が難しいと思われていたのです」
そこで、都市計画法で定められた容積率の制限解除と公道の移設に必要な手続きを管理組合や各専⾨家と協働で実施。同時進行で、区分所有者一人ひとりの話に耳を傾け、合意形成をサポートした。容積率の制限解除は、ほかの事例で実現した経験が功を奏したが、公道の移設と同時に行ったのは、調布富士見町住宅が初めてだ。
こうした取り組みを実現している背景には、旭化成ホームズグループが半世紀にわたって続く注文住宅事業で積み重ねてきたノウハウがある。
「一人ひとりのお話をじっくり伺い、何年にもわたるお付き合いをしていきます。完成して引渡しするときはもちろん、何よりうれしいのは、実際に皆さんが快適に住んでいらっしゃる姿を見たときですね」(花房氏)
旭化成不動産レジデンスが建替えを手がけたマンションは、上質な都市型マンションブランド「ATLAS」として生まれ変わる。
「私たちは創業当初から住まいの防災性と居住性を高め、人々の『いのち』と『くらし』に貢献することを目指してきました。危険なマンションをレジリエンス性の高い建物に再建することは、地域を守ることにもつながります。加えて、コミュニティ醸成や地域貢献につながる仕組みも提案しています」(花房氏)
今後も増え続ける高経年マンション。その中には好立地にあることで、建替えによって新たな可能性が見いだせるケースも多い。
「建替えだからこそ、それに⾒合う豊かな暮らしとまちを提供したいと考えています。さらに、マンション以外の⽤途で建て替えることで資産価値の最⼤化を図るとともに、地域を活性化するご提案も求められるでしょう。高経年マンションの増加はすでに深刻な社会問題となりつつあります。それぞれのマンションにとって最善と考えられる再⽣⽅法をご提案し、まちづくりに貢献し続けていきます」(花房氏)
そこに住む人の生活はもちろん、地域の安全にも直結する高経年マンションの問題。そこには、上質で快適な住まいと安全なまちづくりの両立という新たな可能性が芽吹いていた。
※1 国土交通省 マンションに関する統計データ 築後30、40、50年以上の分譲マンション数
※2 国土交通省 マンションに関する統計データ マンション建替えの実施状況