M&Aで創り出す「スマートファイナンスの世界」 金融変革期に日本企業は今、何をすべきか
金融が社会インフラとなる「金融エコシステム」
デジタライゼーションにより、持続的な産業や社会を支える社会インフラとして、「金融エコシステム」に注目が集まっている。「金融エコシステム」では、さまざまな金融サービスが生活の中に溶け込み、ブロックチェーン基盤を通じてトラストレス(※2)な取引が実現されていく。
金融エコシステムを支えるスマートファイナンスは、顧客起点で非金融業者の既存サービスに金融サービスを組み込む「組み込み型金融」や、特定の主体を介することなくブロックチェーン上のプログラムで金融取引の完結を可能にするDefi(自律分散型金融)、ブロックチェーンを活用したサプライチェーンのトレーサビリティの担保などビジネスシーンで活用の場面が拡大し、金融業・非金融業をまたいだ異業種間での連携のうねりを見せている。
一例として、「組み込み型金融」はQRコード決済などに代表されるようなユーザー視点での金融サービスであるが、その構造には(1)ユーザーへのサービス提供者である「ブランド」(2)ブランドに対して金融機能を提供する金融機関などの「ライセンスホルダー」(3)ブランドとライセンスホルダーの両者間をつなぐシステムの提供者である「イネーブラー」という3つの役割があり、それぞれ異なったプレーヤーが担いつつ、1つのサービスを形成し、われわれの生活の中に溶け込んでいる。
このように、「金融エコシステム」構築の過程で、異業種間での連携が促進され、新たな付加価値を社会に提供している。そのため、この環境下に置かれた日本企業においては、いかにうまく異業種企業との連携を進め、自社の事業を時代に合わせてアップデートしていくのかが成長のカギとなってくる。
金融エコシステム構築に必要なこと
金融機能やブロックチェーンなどの新技術を自社事業に取り込み、新たなサービスとして打ち出していくには、ユースケースの構築と外部企業との提携を通じたケイパビリティの確保が最も重要だ。この2点ができて初めて、自社の事業をアップデートさせることが可能となる。
ユースケースの構築については、ビジネスモデルの根幹である「顧客ニーズと提供価値」に立ち返り、顧客の視点から課題(ペイン)を解決できるサービスとして、金融機能の活用シナリオを描いていく。すなわち、ユースケース構築にはプロダクトアウトではなくマーケットインの視点が不可欠であり、それがないと継続的に利用され、収益貢献につながるサービスを開発していくことは困難だ。
例えばある決済サービスは、C2C(消費者間)で取引した金額が残高としてプールされ、コンビニなどで利用でき、与信を供与して後払いにも対応するなど、消費者の購買導線に沿った利便性の高いサービスとして構築されている。
ユースケースが明らかになると、その実現に必要なブロックチェーンなどの技術や金融機能などのケイパビリティが明らかになり、次にこれらをどのように確保すべきか、ということが論点となる。
ここで明らかになったケイパビリティは自社で内製化することは困難なものが多いため、M&Aやアライアンスなど外部の企業との提携を通じて確保していくことが必要となる。またケイパビリティの重要性に応じて、出資比率や契約条件を吟味する。一般的には重要性が高いほど出資比率は高くなることから、自社との協業を簡単に破棄できないように契約条件をしっかりと設計していくことが多い。
例えば、組み込み型金融のイネーブラーであるシステム事業者が、顧客接点を有するキャッシュレスサービスを提供するブランドを補完したいと考えた場合には、バリューチェーンを一気通貫で押さえる意味で、業務提携やマイノリティ出資ではなく、M&Aにより全事業を自社内に取り込むといった具合だ。
一方で、金融エコシステムは異業種の他社との連携の中で新たな価値創造を行う活動であるため、自社の都合を主張するだけでなく、相手側のメリットもしっかりと遡及し、お互いがWin-Winになれる枠組みを構築していかねばならない。
今後は、金融エコシステム構築における“登場人物”は多種多様となり、そこに参画する企業にはよりいっそう、上記のバランスを取って自社と相手側の役割分担を設計し協業の推進をリードすることが求められるだろう。
日本企業のさらなる飛躍のため
デロイト トーマツ コンサルティングは、こうしたスマートファイナンスの実装支援に力を入れている。上述した組み込み型金融やDefiのほか、環境分野に特化して資金提供を行う「グリーンファイナンス」などの取り組みを通じて、ビジネスモデル・法規制・技術・M&A・アライアンスの観点からクライアント企業をサポートし、「金融エコシステム」を実現することを目標としている。
とくに、非金融業の企業にとっては、異業種との連携を前提としたビジネスモデルを構築することが重要であり、同社でM&Aやアライアンス支援を担う田口優氏はこう話す。
「自社でできないことを、パートナーリングやM&Aなど外部とのアライアンスを通して実現することで、事業スピードを大幅に上げ、企業として単独ではたどり着けなかった境地に達せます。そうしたアライアンスをサポートする盤石の体制が整っている点は、当社の重要なケイパビリティです」
また、同社でスマートファイナンス領域をリードする執行役員・赤星弘樹氏は、こう話す。
「ビジネス課題の解決に特化した人材と、特定の産業分野に精通した専門家の両者が社内にオーガナイズされ、案件ごとに有機的に融合することが当社の強み。それにより、さまざまな課題に対する深く柔軟な知見のご提供と、戦略立案から社会実装までのEnd to Endでの支援が可能になっています」
ユーザー、サプライチェーン、協業相手などすべての“登場人物”を見渡し、適宜調整やサポートを行うことで、真のエコシステムをつくり上げる。その中で同社は、金融エコシステムの「扇の要」として機能できる、希有な存在だ。その目線の先には、ブロックチェーンによって、信頼性が担保されたトラストレスな社会と、企業や人が自由につながり合って、サービスそのものの向上に傾注できる新しい世界が待っている。
※1 VUCA:VOLATILITY変動制/UNCERTAINTY不確実性/COMPLEXITY複雑性/AMBIGUITY曖昧性の略
※2 取引の信頼性を担保するためのコストが低い状態を指す