異業種連携によるサステナブルなMaaSの実現 「エゴ」システムから「エコ」システムへの転換

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次世代モビリティイメージ
急増する交通課題の解決策として、MaaS(Mobility as a Service)への期待が高まっている。EV(電気自動車)やFCV(燃料電池自動車)、自動運転車といった移動手段の進化は急速に進んでいるが、環境への負荷軽減や高齢者の移動といった課題の本質的な解決のためには、移動手段の提供方法にまで踏み込む必要がある。利便性と収益性を両立させながら、モビリティサービスを提供するにはどうしたらいいのか。社会課題解決のための横断的組織「SMART X LAB」や、異業種間でのエコシステム形成やM&Aも活用した事業創造を支援するサービスの提供を通じて、次世代モビリティの確立に挑戦する、デロイト トーマツ コンサルティングの取り組みを追った。

MaaS成功のカギを握る「ボーダーレスな連携」

近年のデジタル技術の急速な進展は、企業を取り巻く環境を激変させた。生活者の行動様式の変化に伴い、従来の業種・業界の枠にはまらないビジネスモデルが台頭。また、気候変動に由来するとみられる自然災害の頻発により、企業活動においては従来以上に持続可能性を重視する状況となった。

「自社のコンピテンシーを生かすだけでは通用しない時代になってきたといえます。直面する課題が社会全体に関わっていますので、解決策を見いだすには業種・業界を超えた協力が不可欠となってきました」

そう話すデロイト トーマツ コンサルティングの執行役員、白鳥聡氏は、事業戦略も大幅に見直すべきだと提言する。

デロイト白鳥氏
デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 パートナー
白鳥 聡

「例えば自動車産業では、性能を高め、台数を増やすことを目指してきました。ところが今は、環境への配慮や移動の効率性が求められますから、逆に台数を減らしたうえで、モビリティサービスとして生活者の利便性を高めるにはどうするかを考える必要も出てきました。またその実現には、従来自社が培ってきた経営資源とは異なる能力が求められ、必然的に業種・業界を超えた連携が必要となります。いわば、自社目線の『エゴ』システムから、共通のパーパスに基づく『エコ』システムへの転換が求められます」

これは、意思決定の主軸を「自社都合」から「社会課題」に置き換えることを意味する。利用する生活者だけでなく、地域のさまざまな事業者や行政とも連携しなければ成立しないモビリティサービスの場合、とくに欠かせない視点だといえる。

ステークホルダーへ新たな可能性を提供

そうした状況を踏まえ、デロイト トーマツ コンサルティングが2019年に立ち上げたのが「SMART X LAB」だ。メンバーの1人である執行役員の井出潔氏は、その内容を次のように説明する。

「以前より、弊社では自動車や鉄道、航空など業界ごとの専門性を持ったコンサルティングチームがそれぞれ存在しており、連携しながら高品質なサービスを提供しています。これに加えて、社会全体としてどのようなサービスが求められるかをクロスインダストリーで考え、つなぐチームができることで、業種・業界を超えた社会課題解決の加速にいっそう貢献できるのではないかと考えています」

デロイト井手氏
デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 パートナー
井出 潔

すでにいくつものプロジェクトが進行中だが、スマートモビリティとして取り組んでいるのが、神奈川県逗子市の移動サービス再構築プロジェクトだ。

「逗子市は、豊かな自然と都内への良好なアクセスでベッドタウンとして発展してきました。ただ、高台の住宅地から駅や病院に向かうには、かなりの坂道を通らなくてはなりません。高齢化が進んで免許を返納する人も増え、生活の足が必要になってきました」(井出氏)

21年に実証実験に取り組んだのは「乗り合いタクシー」だ。低コストで利用料金も抑えられる手段だが、注目したいのはその内容よりも話の進め方だ。市役所や自治会、地元のタクシー事業者などと対話を重ね、合意を得ながらサービスをデザインしていった。

「地元のタクシー事業者にとっては、減収のおそれもある話です。新たなビジネス創出につながる可能性など、初期段階から長期的なメリットについてじっくり話し合ったことで、ご協力をいただくことができました」(井出氏)

移動以外の収益源も確保するスキーム力

採算性を判断しつつ、事業の成立を目指すプロセスも見逃せない。住民からの要望を100%満たす運行時間や運行本数では採算がまったく合わないため、交通量調査の結果を踏まえ、住民の方々と対話をしながら運行時間や運行本数を決めていったと井出氏は明かす。

「住民の方々にご理解いただき、活動量を増やし、行動様式の変化を受け入れていただくことで、サービスの利用を増やし、事業としてのサステナビリティを担保する挑戦をしています」

地元商店街との連携など、地域全体の魅力向上を目指すことで1社単体では難しいエコシステムが広がっていくわけだが、当然ながら自然発生的に起きることではない。白鳥氏は、機能するエコシステム形成のコツについて、次のように説明する。

「エンドユーザーの利便性を最大化することも重要ですが、一方でエコシステムに関わる事業者の経済性も意識しないと、サステナブルにはならないと思います。そのためには、生活者の視点でサービス設計をしつつも、その実現のために多様なプレーヤーの能力を柔軟に組み合わせ、最適な提供体制や、ステークホルダー間でのプロフィットシェアの仕組みを整えることがポイントとなります」

その体制づくりにこそ、デロイト トーマツ コンサルティングは力を発揮する。地域のニーズや関係するプレーヤーの置かれている状況はさまざま。あらゆる業種・業界に精通しているからこそ、一時的な実証実験、業務提携やジョイントベンチャー、M&Aといった多彩な手法の中から、状況に合った適切なスキームを選択し、また事業開発のTest & Learnに合わせて、それを柔軟に発展させていくことができるのが強みだ。

「共創」がサステナビリティを向上させる

また、今後のMaaSの可能性を広げる取り組みにも着手している。例えば、2022年3月に千葉市で開始した診療予約とタクシー配車をつなぐ医療MaaSでは多数の事業者が連携。次世代エアモビリティ「空飛ぶクルマ」の取り組みでは、社会受容性を向上させるため、活用シーンを体験できるVRコンテンツも開発した。モビリティに限らず、業種横断で課題解決に取り組む「Smart X」の実現に、異業種でのエコシステム形成やM&Aによる事業創造を活用するノウハウを着々と蓄積している。

今後、テクノロジーのさらなる進化に伴い、さまざまな壁が登場することは想像にかたくない。現段階では予測不可能な社会課題が発生する可能性も十分にある。そうした事態に対応し、企業としてのサステナビリティを高めるには、異業種との「共創」をスタートさせることが重要だ。

自社目線に依拠した「自社都合ドリブン」ではなく、社会全体の課題解決に向けた「社会課題ドリブン」へとシフトすることが、事業発展のカギとなる時代は、すぐ目の前に来ている。

井手氏・白鳥氏立ち姿

インダストリーソリューション|コアビジネス|デロイト トーマツ グループ|Deloitte

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逗子市スマートローカル構想への挑戦 地域生活に不可欠な移動手段を持続可能なサービスとして実現する|D-nnovation|Deloitte Japan