三菱総研が分析「日本のDX遅れ、3つの要因」 DXに変革をもたらすDXジャーニーとは

世界の国々に比べて、かなり遅れているといわれる日本企業のDX。具体的な施策を進めている企業も多い反面、大きな成果には、まだあまり結びついていないようだ。その要因はいったいどこにあるのか。勝ち筋をつかむにはどうすればいいのだろうか。デジタル技術を活用したビジネス変革支援を多数手がけてきた、三菱総合研究所(以下、三菱総研)の比屋根一雄氏に解説してもらった。

データ起点ではなく、課題起点で考える

――日本企業のDXはなぜ進まないのでしょうか。見立てをお聞かせください。

大きく3つの阻害要因があると考えています。「データ活用の失敗」「レガシーシステムの呪縛」「DXビジョンの欠如」です。まず「データ活用の失敗」をご説明しましょう。データの重要性は広く知られており、具体的な取り組みを進めている企業も多いと思います。当社にも、「データを活用して新しいサービスを開発したい」といったご相談を多々いただきます。

三菱総合研究所 研究理事 デジタル・トランスフォーメーション部門 副部門長
比屋根 一雄

ところが、なかなかうまくいきません。苦労してデータを集めても、どう役立てればいいかわからないといったケースが目立ちます。なぜそうなるのか。それは、逆のアプローチをしているからです。つい、データから課題を見つけようとしてしまう。そうではなく、課題を設定することが第一です。つまり、データ起点ではなく、課題起点で考えるということ。課題解決に必要なデータだけを探して、集め、分析することで、「データ駆動経営」が機能し始めるはずです。

――「レガシーシステムの呪縛」とはどういうことでしょうか。

数十年かけて構築してきたシステムを一気に置き換えようとするのは、コスト面からもかなりの無理が生じます。思い切って全面刷新すれば、業務の効率性や利便性は向上するでしょうが、DXの本来の目的であるビジネス変革や新たな価値創造につながるとは限りません。

こうした“呪縛”から逃れるにはどうすればいいか。当社は、すべて一括で変えようとするのではなく、ビジネス変革に直結する部分から段階的に、必要な部分を必要な時に置き換えていけばいいと考えています。デジタルビジネスで新たな価値創造に取り組むにしても、既存のシステムとの連携は欠かせませんから、一部だけ切り離してクラウドに乗せたり、APIで連携させたりするといった工夫です。事業部ごと、ビジネスごとにこれらに取り組み、目標達成に近づいていく。そのための航海図を描くという意味を込めて、当社ではこの手法を「DXジャーニー®︎」と呼んでいます。

スモールスタートで成功体験を積み重ねることが重要

――DXジャーニー®︎の行き先、すなわち将来像はどう設定すればいいのでしょうか。

「DXビジョンの欠如」は、まさにDXが遅れている要因の1つでもあり、目標設定の難しさを表しています。デジタル技術を活用する際には必ず、どう変わりたいのか、どんなビジネスを創出していくのかといった、企業の「ありたい姿」を描かなくてはなりません。日本企業の、DXに対する意識は確実に高まっています。ただ、その内容が壮大すぎて、具体的な施策に落とせていないケースが多いのです。

例えば、「海外拠点を含めデータをリアルタイム連携して生産計画を最適化し、EC事業へ注力する」というビジョンを描いたとします。一見、具体的なようですが、拠点ごとにデータフォーマットが違ったり、サプライヤーが複数いてデータ共有が困難だったりすると、いざ取り組もうと思っても「どこから手をつければいいのか」と立ち往生してしまうことになります。

――現実的なビジョンを描くことが重要ということでしょうか。

壮大なビジョンも重要ですが、すぐにそこにたどり着くのは困難だと認識しなければなりません。だからこそ、「DXジャーニー®︎」の考え方が必要です。キーワードとしては、「スモールスタート」と「アジャイル」。“low-hanging fruit”(すぐもぎ取れるフルーツ)といわれますが、成果の出やすいところで成功体験を積み重ねていくこと、そしてそれら1つひとつをビジョンにつなげていくことです。

当社の「DXジャーニー®︎」は、システムに加えて顧客体験、オペレーション、ビジネスモデル、組織という5つの領域を設定しています。それぞれを連携させることで、結果的に大きな変革を実現できるようになっています。

三菱総研のDX支援の「強み」とは

――ミクロの視点はともかく、俯瞰するマクロの視点を自社で持つのは難しそうです。

当社の支援がそういった道標を示す役割も果たせるよう、強く意識しています。DXジャーニー®︎を適切に描くには、顧客企業の業務に対する理解力や組織内の人間関係の把握など、画一的なフレームワークでは通用しない知見が求められます。

その点当社は、官民問わず多数のデジタル変革プロジェクトを推進してきました。そうした実績に裏打ちされた「伴走力」には自信があります。またデータ活用においても、単なる分析にとどまらず、業務との相関関係を理解したコンサルタントがそろっています。アジャイルなシステム構築という点では、フランスのスタートアップ企業と提携して、データ収集から分析、可視化までワンストップで実装できるクラウドサービス「ForePaaS」を独占提供しています。

――まさに、日本のDX推進を阻害してきた3大要因をクリアできるわけですね。

はい。1つ課題を解決すればまた別の課題が見えてくるのがDXの特徴ですから、IT部門以外との協業や融合が必要です。当社はこの点も踏まえ、チームの組成や人材育成も意識した支援を展開しています。

当社はこれまで総合シンクタンクとして、長年社会課題の解決に取り組んできました。今、企業のDXを支援することは、社会全体のエコシステムをデジタル技術活用で統合できるチャンスだと思っています。これまでに培った知見やノウハウを、今後はさらなる社会貢献に生かしていきます。

~三菱総研のDX支援事例~
一般財団法人 日本海事協会
短期間でGHG排出マネジメントツールを開発
自走化を促すDX人材育成の支援も実施
日本海事協会は、船の検査や海事分野における認証サービスをグローバルに提供する国際船級協会の1つ。海洋ビジネスの進化と持続可能な成長に貢献するため、DXを推進している。三菱総研は、DXビジョンの構想段階から一貫して支援。脱炭素社会に向け、GHG排出量の適切な計画管理報告が求められる時代の到来を見据え、「ForePaaS」を活用して効率的に管理できるツール「ClassNK ZETA」の開発も支援した。同協会内システムですでにForePaaSを活用していたこともあり、わずか2カ月でトライアル公開。総合シンクタンクならではの社会課題に対する深い知見と、確かな「DXジャーニー®︎」を描く力が証明された形だ。
見逃せないのは、単にシステムの開発・導入を支援しただけでなく、自走化を後押しした点だ。開発に並行してチュートリアルやハンズオン講習を実施し、DX人材の育成を支援。同協会デジタルトランスフォーメーションセンターの木村文陽氏は、「プログラミングやWebアプリ開発にある程度経験があるメンバーであれば、比較的速やかにツールを使えるようになりました。専門知識のある要員をそろえずともシステム開発の内製化ができることに魅力を感じています」と話す。今は、システム開発の内製化を進行中。「早ければ1日でアジャイル開発できるようにしたい」(木村氏)とのことで、スモールスタートから本格的なDX組織へと一気に駆け上がりつつあるようだ。
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