脱炭素時代に適合した住まいの実現に向けて よりよく生きるための住まいづくり最前線

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2050年までに「カーボンニュートラル」を実現するために、私たちは「省エネ」と「再生可能エネルギー」の利用を徹底していかなければならない。その一手段が「住まいづくり」の見直しだ。経済産業省ZEHロードマップフォローアップ委員会の委員長を務める芝浦工業大学建築学部長教授の秋元孝之氏に、これからの住まいのあり方について聞いた。 

開口部の見直しでCO2削減をアシスト

日本政府は2030年度までにCO2排出量の46%削減(13年度比)を目指す中で、家庭部門には66%の削減を求めている。達成のためには省エネルギーを徹底して、太陽光発電などの再生可能エネルギーを最大限に導入することが必須だ。「残された時間はあと8年。不可能な目標ではないとは思いますが、そうとうに高いハードルが課されている印象があります」と秋元孝之教授は率直な感想を口にする。

芝浦工業大学 建築学部長 教授
秋元 孝之 氏 (あきもとたかし)
1988年早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻修了。カリフォルニア大学バークレー校環境計画研究所に留学。 博士(工学)、一級建築士。 清水建設株式会社、関東学院大学工学部建築設備工学科助教授のち関東学院大学工学部建築学科教授を経て、現職。 経済産業省ZEHロードマップフォローアップ委員会の委員長を務める

目標をクリアするカギとなるのが、日々の生活拠点である「住まい」だ。冷暖房機器や給湯器、照明など、私たちは暮らしの中でさまざまな形でエネルギーを消費している。これからは、この消費を無駄なく効率的にしていく工夫が必要になる。

いかに住まいの省エネ性能を上げるか。そのポイントが高断熱・高気密の実現、つまり夏は外から入ってくる熱を、冬は外へ逃げてしまう熱を最小限に抑制することだ。

「屋根や外壁の外皮性能を向上させることはもちろんのこと、開口部である窓は最も熱の移動が大きい箇所になるため、ここに高性能なガラスやサッシを用いることが大事になります」

少し古い住宅の窓は、板ガラス(一枚ガラス)とアルミ製の窓枠を組み合わせたものが一般的で、熱の出入りが大きく、結露が起こりやすいというマイナス面がある。しかし、近年は特殊な金属膜をコーティングした複数枚のガラスでできた、断熱性能・遮熱性能に優れたLow-E複層ガラスと樹脂製あるいはアルミ樹脂複合のサッシが普及している。新築住宅ではこのLow-E複層ガラスと高性能のサッシがほぼ標準仕様となっており、「既設住宅もこれまでの一枚ガラスをLow-E複層ガラスにし、サッシも高性能のものに交換すると、非常に大きな省エネ効果が得られ、光熱費を削減できるという経済的メリットのほかに、快適、健康というベネフィットを享受することが可能になります」と秋元教授は言う。

快適・健康・安心をもたらすZEHとは

例えば、暖房をつけると上部は暖かくなるが足元がとても冷える、暖房の利いた部屋から廊下へ出るとすごく寒いといった現象は、住宅の断熱性の低さに起因する。

「高断熱・高気密な住まいは室温のムラが少なくなるため、快適な住環境を実現することになる。しかも室内外の温度差を改善することで、ヒートショックから体を守るほか、起床時の血圧上昇の抑制、アレルギー性疾患の軽減など、呼吸器系、循環器系疾患のリスクを抑えることが、最近の研究でわかってきています」

こうした開口部を含む住宅外皮の断熱化対応に加え、エアコンなどの冷暖房設備、給湯設備、照明設備、家電に至るまでの機器を高効率なものにしていっそうの省エネ化を図り、太陽光発電と蓄電池を取り入れて「創エネ」することで、住まいの年間消費エネルギーを正味(ネット)でおおむねゼロにするネット・ゼロ・エネルギー住宅「ZEH(ゼッチ)」が、今注目を集めている。

住まいがZEHになれば、経済的、快適、健康的なだけでなく、災害時に電力、ガスなどのライフラインが途絶えた際も、発電した電気を自家消費できるので安心して過ごすことが可能になる。

国は住まいの断熱・省エネ・創エネを図るために、30年度以降新築される住宅についてZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保や、30年における新築戸建て住宅の6割に太陽光発電設備を設置するなど、さまざまな目標を打ち立てている。

課題は既設住宅のZEH化をいかに進めるかだ。約5000万戸あるといわれる住宅ストックのうち、省エネ基準に適合している住宅は19年度時点で約13%、無断熱の住宅は約29%と推計される(国土交通省調査によるストックの性能別分布を基に、住宅土地統計調査による改修件数及び事業者アンケート等による新築住宅の性能別戸数の推計を反映して算出〈令和元年度〉)。

今求められる住まいのグレートリセット

「外壁や屋根の外皮改修ですと、それなりに大がかりな工事となってコストもかかるため、なかなか手をつけにくいと思います。しかし、窓ガラスやサッシを高性能なものに交換したり、内窓を付けたりするのであれば工期も短く、コストも外壁などの改修に比べればかなり抑えられます。築20年、30年くらいの住宅であれば、十分投資対効果があると思います」

既設住宅の省エネ化を促進するための補助金や減税など、さまざまな支援制度も用意されている。例えば環境省の「既存住宅における断熱リフォーム支援事業」による補助制度では、高性能建材(断熱材、窓、ガラス、玄関ドア)や高性能設備(蓄電システム、蓄熱設備、熱交換型換気設備等)を使って、一定の省エネ効果の向上が見込める断熱リフォームを行った場合に、その費用の一部(上限120万円/戸)が助成される。また要件を満たせば、リフォーム促進税制や認定長期優良住宅・低炭素住宅に係る特例措置などの税制優遇も受けられる。

もちろん、どんなに性能のよい設備を導入しても、適切な使い方をしなければ、省エネには結び付かない。大切なのは、住まい手がカーボンニュートラルをわが身に突きつけられた現実と受け止め、喫緊の課題として取り組むことだ。

「私たちは、地球環境問題と感染症によるパンデミックという、相互に関係はあるけれども、性格の異なる大きな問題に直面しています。こうした状況を千載一遇のチャンスとして、住宅や住まい方を大胆に見直す『グレートリセット』をしていかなければなりません。脱炭素時代のニューノーマルに適合した住まいを実現していく選択が、私たちに求められているのです」