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「長年の謎」から格付けの意義を問う キャッシュフローを重視した格付けが散見される謎

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なかぞら・まな 1991年慶応義塾大学経済学部卒業、野村総合研究所に入社。97年野村アセットマネジメントでクレジットアナリストに。社債や国債を分析。モルガン・スタンレー証券、JPモルガン証券を経て、2008年10月からBNPパリバ証券クレジット調査部長。11年から現職。(撮影:尾形文繁)

格付けは3~5年先の債務返済の確からしさについての格付け会社の意見である。トリプルAからシングルCあたりまで20段階以上に分類してシンボリックに表示するため、わかりやすい。投資ガイドラインの一部として広く使われ、金融市場になくてはならないツールとなっている。

格付けは平常時に問題になることは少なく、非常時には話題になりやすい。しかも、いったん格下げされると、資金調達コストが上昇するうえ、それが当該企業の資金繰りをより難しくする。悪循環が始まったときの格下げは始末が悪い。

キャッシュフロー重視?

筆者は信用分析を長年行ってきたが、いまだに謎がある。キャッシュフローを重視してつけられた格付けが散見されることである。財務内容がどうであれ、①営業キャッシュフローが潤沢、②擬似的なキャッシュフロー(株など)を潤沢に保有、③債券市場につねにアクセス可能、の3点を満たすか、どれかが突出している場合には、比較的高い格付けがなされてきた。

3月16日、S&Pが米ボーイングの格付けをAマイナスからトリプルBへ2ノッチ引き下げ、かつ見通しとして引き下げの方向を継続した。「737MAX」機のトラブルに加え、新型コロナウイルスにより航空需要が落ちたためという。

だが、そもそもボーイングの2019年12月期の連結決算で、自己資本はマイナス83億ドルで実質債務超過であったことを指摘したい。債務超過でもシングルA格が付与される謎。ほかにも米フィリップモリスなど、同様の事例は多い。

しかも、である。こうしたキャッシュフロー重視による格付けが主流であるのならば、先の3点を満たすソフトバンクグループ(SBG)の格付けがダブルB格であったことはおかしい、ということになるであろう。ボーイングがシングルA格を付与されていたことと整合性が取れないのではないか。

そのSBGについて、今般、S&Pはアウトルックをネガティブに変更、ムーディーズはBa1からBa3に2ノッチ格下げ、かつ、引き続き格下げ方向で見直し、とした。その事由を見ると結局、同社が投資している株式市場の下落がきっかけになったように読める。

しかし、株価は上がりもするが下がりもする。「株式保有に傾注しているような企業経営に問題がある」という指摘なら理解できるが、株価が落ちたことを格下げ事由にするのであれば、株価が上がれば格上げすることにもなりかねず、腑に落ちない。

金融市場が正常なときには財務内容が毀損するリスクは小さい。その場合には債務返済がしやすいため、キャッシュフロー重視の格付けでも問題になりにくい。しかし、キャッシュフローの目詰まりが起きやすい非常時になると、格付けがリスクを正確に表示できていないということになってくる。

“Cash is King”となる非常時にはバランスシートが大いなるバッファーとなることは揺るぎない。キャッシュフローも重要なことは疑いがないが、バランスシートの重要性が増している以上、両方のバランスで格付けをする仕組みに戻すべきではないか。

そうでなければリーマンショックのときのように、市場混乱の理由の1つとして、再び格付け会社が悪者とされかねない。格付けは市場の門番として、投資家に重要な示唆を与えるものだ。その役割を放棄するようなことがあってはならない。

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