フェイスブックがデジタル通貨「リブラ(Libra)」の構想を発表するや、各国の政府や金融当局、中央銀行が一斉に反発した。7月16~17日には米国の下院・上院両議会で公聴会が開かれ、このプロジェクトの責任者であるデビッド・マーカス氏がさまざまな角度からの質問に答えた。
当事者のフェイスブックは、27億人ものユーザーを抱え、しかも何度も情報漏洩事件を起こし、FTC(米連邦取引委員会)から50億ドルの制裁金を科されたばかり。そのため、政府や中央銀行などの体制側は一斉射撃を行った感がある。
批判の1つに「金融政策が効かなくなる」というものがある。だが、リブラの特徴の1つは安定性を高めるために「裏付けとして実体のある銀行預金や短期国債を保有すること」なので、野放図に発行されることもなく、影響はないだろう。国債と通貨を交換するだけの量的緩和ではインフレを実現できないことはすでに日本銀行の政策で実証済みだ。
一方、フェイスブック側も巨大事業をぶち上げた割には腰砕け、考えの甘さを露呈した。
「匿名性」により「マネーロンダリングや犯罪に使われる」という批判は的外れであろう。匿名で交換できるのが貨幣の利便性である。そのため、マネロンや犯罪で最も活躍しているのはドルだ。しかし公聴会で、マーカス氏は米国の司法当局に協力し、金融犯罪捜査網に登録すると回答。そして、「適切な承認が下りるまではサービスを開始しない」と、2020年前半にもサービスを開始するという計画をあっさり取り下げた。
誰のための通貨か
リブラはホワイトペーパーで、世界中で貧しい人ほど既存の金融システムからはじき出されていると指摘し、「金融包摂」(Financial Inclusionの訳。経済活動を円滑に行うための金融サービスをすべての人が受けられること)を推進するとの理想を掲げている。
しかし、そうした問題を抱える人々の多くは、政治的に不安定な地域に住んでいる。政権が民主的に選ばれず、人権侵害が横行する国、米国と敵対している国もある。公聴会での回答からは、むしろ、リブラの利用者の追跡は可能であって、そのプライバシーを本気で守る覚悟はないと見受けられた。
通貨と金融が専門の早稲田大学大学院の岩村充教授は「犯罪に使われないように努力するが、政府といえども何でも見てよいわけではない、政府も人権を侵害してはならない、ということぐらいは主張すべきだ」と辛口の評価を下す。
リブラは「中立性とブロックチェーン技術に寛容なスイスに拠点を置く」としているのに、なぜ米国の承認が必要なのか、司法管轄権の議論にも及び腰だ。
大きな論点は、シニョレッジ(通貨発行益)となる裏付け資産の利子の帰属だ。リブラは30以上の国際的企業や非営利組織で構成されるリブラ協会が運営する。利子はリブラの運営に使い、残りはリブラ協会の出資者に配当として支払う、としている。ここが、通貨発行益を独占してきた国家体制側の逆鱗に触れたのだろう。
金利が今後、ゼロ状態を脱して上昇していけば大きな問題となるだろう。あるいは想定外のマイナス金利で損失を被るのか。
前出の岩村教授は「発行益を利用者に還元するという通貨が出てくるかもしれない」と予想する。国家による通貨の独占を廃し、競争によって低コストで利便性が高く、安定した通貨が供給される。経済学者ハイエクの描くそんな世界の実現には、もっと利用者の利益を考えた参入者を期待したい。






















無料会員登録はこちら
ログインはこちら