貿易管理措置をめぐる日韓の対立はいったん、韓国側がトーンダウンしたかに見える。8月15日に韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が行った演説では、「日本が対話と協力の道に出てくるならば、私たちは喜んで手を握る」と発言し、日本へ対話を呼びかけた。だが、実態はどうか。
この演説の直前まで、文大統領の対日メッセージは直接的で激しい言葉を使っていた。「過去を記憶しない国・日本」(8月5日)、「加害者である日本は盗っ人たけだけしい」(同2日)と日本批判のボルテージを上げていた。「貿易戦争」「経済侵略」と叫び、不買運動を続ける韓国世論の対日批判は現在でも続いている。
ところが15日の演説では「日本が隣国に不幸を与えた過去を省察する中で、東アジアの平和と繁栄をともに導いていくのを私たちは望む」と述べた。
さらに、植民地支配など日本との歴史問題については「徴用工」「心からの謝罪」といった従来の言葉遣いから一転、「日帝強占期(日本の植民地時代)被害者」と述べ、また「日本は韓国とともに、実質的に癒やそうとしてきた」など、これまでの日本側の外交努力を評価するかのような柔らかい表現に言い換えてもいる。
だが、同じ演説で文大統領は、日本に3つの注文をつけている。1つは過去の歴史への反省を求め、次に元徴用工らへの補償の分担を求め、そして貿易面での日本の優位性を韓国に対する武器として使うことをやめよとしている。
変わらぬ韓国の姿勢
この3つの注文は、表現上は過去の歴史に対する謝罪を求めておらず、貿易措置に対する直接的・攻撃的な批判をせず、2020年に開催予定の東京五輪のボイコットといった韓国国内の対日批判と一線を画しているように見える。
しかし日本がこれまで求めてきたのは、韓国の最高裁判所(大法院)判決をめぐる「元徴用工」への補償問題を解決するための対話である。それを無視してきたのは文大統領だ。そして、今回の措置では安全保障上の輸出管理の徹底を日本が求めている。結局、「現状認識を優しく言い換えたにすぎず、日本政府の立場とは懸け離れている」(静岡県立大学の小針進教授)。対決よりも対話の姿勢を示したほうが国際社会で支持を得やすい、という計算があったのだろう。
だが、日韓対立の悪影響はじわじわと出始めた。日本企業の手続きが煩雑化しただけでなく、将来の受注減少への兆しも見える。また観光業、とくに地方では韓国人観光客の減少が顕著だ。対立が続けば続くほど、国民の利益毀損と感情のしこりが増すだけだ。
表現上のみでも文大統領が対話を呼びかけたのであれば、日本側も何らかの形で対話を受け入れるべきだ。それにはまず、徴用工など歴史問題と、今回の輸出管理の問題を分けた対話・協議を行うことを提案すべきだろう。純粋な貿易問題として対立を解消することが、今何よりも大事だ。
そのために、韓国側の輸出管理における不適切な事例をきちんと把握・整理しておく必要がある。「友好協力関係に否定的な動き」「国際的な信頼関係が崩れた」といった、貿易とは別途の問題に世耕弘成経済産業相が当初言及していたことは、明らかに悪手だった。だからこそ、WTO(世界貿易機関)などの国際協議の場で、日本の姿勢は自由貿易に反するとして韓国が反論する余地を与えてしまっている。
安倍政権は、もっと戦略的な思考で構築された精度の高い外交戦略で韓国と協議すべきだ。






















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