米中両国は7月末に中国・上海で通商交渉を再開した。制裁合戦のエスカレーションはひとまず止まったが、対立の長期化は避けられそうにない。
中国の持久戦戦略については本欄でも再三指摘してきたが、ここに来て注目すべき動きが出てきた。中国も「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」に参加すべきだという議論が、中国国内で力を得てきたのだ。米国がTPP(環太平洋経済連携協定)から離脱した後に、日本など11カ国が成立させた自由貿易協定である。
6月に日中の有識者を集め北京で開かれた会議で、中国の経済学界の重鎮である余永定氏は、「中国はCPTPP参加を検討すべきだ」と発言した。中国政府の高官からも同様のコメントが聞かれるようになった。
実は2015年10月にTPP交渉が大筋合意に至るまで、中国は参加に関心を見せていた。14年4月には李克強首相が「中国はTPPにオープンだ」と述べていたほどだ。当時の中国では、アジア太平洋地域の自由貿易圏づくりが中国抜きで進められることへの危機感が強かった。
とはいえ、現実に中国がTPPに参加するのは難しかった。それもそのはず、米国のオバマ政権にとってTPPの眼目は、中国が容易にはクリアできないルールを採用することにあった。それをアジア太平洋地域の標準として、中国の変化を促そうとしたのだ。
その背景には、08年のリーマンショック後に自信を深めた中国が、自国の経済的利益をゴリ押しする場面が増えたという事情がある。具体的には、外国企業に対する中国への技術移転の強制や自国の国有企業への優遇策の拡大などだ。こうした中国の行動を多国間のルールで抑制しようとしたのがTPPで、制裁関税を武器にした二国間交渉で中国の政策を変えようとするのがトランプ流だといえる。
中国側からすれば、どちらにしても苦い薬には違いない。しかし実は、中国の産業構造の高度化のためには必要なことばかりだ。だからこそ、中国のCPTPP参加を唱える経済学者がいるのだ。
同じ構造改革でも、米国との二国間交渉に屈するよりは、米国がすでに離脱したCPTPPの下でというほうが国民感情的に受け入れやすいだろう。実際に、01年のWTO(世界貿易機関)加入の結果、中国経済の構造改革が大きく進展した前例もある。
CPTPP参加の目的は、国内の構造改革の促進だけではない。米国の経済圏から排除されることを見越した市場開拓という狙いもある。たとえばアリババ、テンセントなど中国のプラットフォーマーが海外展開するときに、CPTPPは中国勢の権益保護に有用だという読みがあるのだ。こうしてみると中国のCPTPP参加は、それだけでは中国の持久戦戦略の一環としてグローバル市場の分断を促すことになりかねない。
米中両国の相乗りも
だが、米国が復帰すれば米中の対立を一挙に解決するための妙策にもなりうる。TPP大筋合意の際に経済産業省通商政策局長だった鈴木英夫氏は、「米国との安定的な関係構築と世界経済におけるリーダーシップ発揮という観点から、中国がCPTPPをのみ込む形での自由貿易圏構想を米国にぶつける可能性はある」とみる。
世界が米中の両陣営に分割されれば、日本企業は踏み絵を踏まされるか二重投資を強いられることになる。それを避けるため米中をCPTPPに引き込むのは、容易ではないが意味のある挑戦だ。






















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