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時間を取って質問の答えを探す Q&Aをあの記者会見に学ぶ

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まつもと・かずや 音声表現コンサルタント・ナレーター。1991年、NHKにアナウンサーとして入局。2016年から株式会社マツモトメソッド代表取締役。

何度か記者会見のアドバイスの仕事をしたことがあります。その際、お客様が最も神経をとがらせるのが、質疑応答です。事前に想定できる質問にはある程度備えられても、想定外の事態はどんなときだって起こります。それにどう備えるか。7月に相次いで行われた、吉本興業のタレントお2人と、社長の記者会見は、それを考えるうえで参考になるものでした。これらの会見についてはさまざまな問題が語られていますが、この連載ではあくまで「話し方」という切り口で考えてみます。

多くの皆さんの参考になるのは、タレントお2人の話し方です。百戦錬磨のしゃべりのプロですから当たり前といえば当たり前なのですが、これだけの受け答えができるビジネスパーソンはなかなかいないと思います。

何よりもすごかったのは、言葉を発する前に、時間を取って質問に対する答えを一度自分の中で考え、一言一言、言葉を選びながら話すスタイル。私の経験では、一般の方にとっていちばん難しいのは、この「しっかり間(ま)を取って話す」ことです。記者会見のような、好意的とはいえない人たちも見つめてくる場ではなおさらです。沈黙の時間は話し手にとって恐怖です。その結果、とりあえず何か話さなきゃと、終着点が見えない状態で話し始めてしまうのです。

吉本興業の社長の会見はその悪い実例でした。会見について「何が言いたいのか伝わってこなかった」という記事が多くありましたが、その原因は「答えを準備する前に、思っていることを話し始めてしまった」ことだと考えます。

必要なのは「黙る勇気」

例えば「謝罪したいというタレントの気持ちを理解していたか」という質問に対して、いつどこで話をしたかなどの経緯を延々と話してしまう。おそらく、質問に答えるために記憶をたどろうと、経緯を話していたのでしょう。しかし、聞いているほうが欲しいのは明快な答えです。答えにたどり着くまでの思考過程を聞かされても困惑してしまいます。話し慣れていない方は、求められている言葉や内容が何かを忘れて、自分の思うことばかりを話してしまいがち。必要なのは、「黙る勇気」です。

タレントお2人にはほかにも参考にできる点がありました。例えば「会見の目的は謝罪することと、見てきた事実のみを話すこと」と、何を話すかを明確にしていたこと。これで、「会社側の対応について怒りは感じないか」などタレントの感情をあおるような質問をかわしていました。しかもただかわすだけでなく、「今回の趣旨とは違いますので」「臆測でものを言うと語弊があるので」と理由を言って、最後に「答えられません。すみません」と言葉を添えていたのも、記者の気持ちを和らげるうえで非常に有効だったといえます。

質問を正確に把握する。よく考えて結論を用意する。その結論をなるべく早く、端的に言う。答えられない質問は理由を添えてかわす。これらの要素を自然な語り口で行える芸人さんの話術に感嘆した会見でした。

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