居酒屋のテーブルを囲む人たちが、「超懐かしい」「同級生がいた」と盛り上がっている。それぞれ手にしているのは、高校ごとに作られた寄せ書きノートだ。東京・新橋の「有薫酒蔵(ゆうくんさかぐら)」には、全国の約3200校のノートがあり、自分の出身校を言うと、店員が持ってきてくれる。
管理している女将(おかみ)の松永洋子さんは、「最初は1000冊が目標でしたが、3000冊を超えると、もう子どもみたいなものですね」と笑う。
「いい仲間に恵まれました」と高校の思い出をつづる人もいれば、「一昨年からソウルに赴任しています」と近況を報告する人、張ってある名刺の横に「先輩、私のこと覚えてますか?」とメッセージを書き込む人もいる。
消息不明だった高校時代の親友の名刺を見つけて連絡し、再会して抱き合って泣いていた男性、結婚したカップル、仕事が増えた弁護士など、ノートはさまざまな縁をつないできた。最近は女子会と若い男性客が増えている。
福岡の高校を中心に広がる
1冊目が作られたのは1987年。常連客の出身校、久留米大学附設高校のノートだった。それを見た福岡県出身者が自分の高校のノートを希望し、福岡の高校を中心に、しだいに全国の高校へと広がっていった。
女将が校舎、校章などの写真をネットで探してノートに切り張りし、背表紙に高校名を入れる。しかし、作るだけでは終わらない。増えるにつれて、置き場所を確保するためにボトルキープの棚をなくし、テーブル席を2つ潰した。ビールをこぼす人もいるから、表紙を取り換えたり、剝がれそうな名刺を1枚1枚張り直したりと、メンテナンスにも手間がかかる。
あまりに大変だからもうやめよう、と思っていたとき、40歳くらいの男性が1人で来店した。東京で仕事をしていたが、行き詰まって故郷に帰るつもりだった。でも、自分の高校のノートを見ているうちに、もう少し東京で頑張ることにしたという。
「ノートで誰かの人生が変わる。もうやめられないなと思いました」
手書きのアナログ方式が今は逆に新鮮だ。20代の男性客は、「筆跡を見ると、その人が身近に感じられる」「文字に温かみがある」と言う。女将は、「つながりが希薄な世の中に逆行して、どんどんつながっていくのが面白い。私が生きているうちは続けたい。お客様にありがとうと言われると、やめられないのよ」。






















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