「産業人たるの本分に徹し、社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与せんことを期す」
パナソニックの創業者・松下幸之助が1929年に制定したこの綱領を、同社の社員で目にしないものはいない。今でも朝礼や集会などでこの綱領に加え、信条と7精神の3つを唱和するのが日課になっている拠点は多い。
同社における幸之助イズムの教育は徹底している。新卒社員には採用が内定した時点で『実践経営哲学』など代表的な著書が配付され、昇進の段階ごとに研修メニューも用意されている。「宗教のようだと揶揄されることもあるが、盲目的に崇拝しているのではない。社内の共通言語として判断の拠り所になっている」(歴史文化コミュニケーション室の中西雅子氏)。幸之助の理念こそ、27万人の社員と35の事業部を束ねる巨大組織の求心力となってきたのは紛れもない事実である。
ただ、創業100周年を前に幸之助イズムの伝承は岐路に立っている。
1つ目の懸念は、海外人材の拡大だ。インドや中国、北米などでは2013年ごろから、日本が主導してきた開発や生産などの決定権限を、現地で採用した幹部に委譲してきた。より迅速で市場にマッチした事業展開を行うようにするためだが、幸之助の理念が日本の社員のように浸透しているわけではない。社内に創業者を紹介する資料室を設けたり、英訳した7精神を掲示したりしているが、「欧米など、朝礼で唱和するという慣習がそぐわない地域もある」(ある社員)という。
この記事は有料会員限定です
残り 647文字
