2006年に起きた、中国人妻によるインスリン殺人未遂事件を覚えているだろうか。犯人の鈴木詩織の出身地である方正は、中国東北地方の黒龍江省にある人口20万人の都市だ。人口13億8000万人の中国から見れば7000分の1。にもかかわらず在日中国人の約6%が方正の出身だ。方正の人口の約半数は、日本在住か日本滞在歴があるという。
方正へは黒龍江省の省都ハルビンから東に約180キロメートル、高速バスで2時間30分ほどの道のりだ。
街外れにあるバスターミナルから散歩してみると、個人商店の看板の右下に小さく日本語が書かれている。06年に、県政府が新規開業する商店の看板には日本語表記を義務づけたのだ。親日をアピールして日本からの投資などを期待したのだろうか。エステをⅠステと表記するなど、日本人としては突っ込みどころ満載だが……。
日本風情街と呼ばれる閑散とした商店街に隣接して、帰国した華僑に優先して提供される2階建て高級住宅地があった。手前の1軒には上半身裸のおじさんの姿が見えたが、背後の家はどれも空き家に見える。東日本大震災後、約3000人が日本で蓄えた資金とともに帰国したことで方正はいっとき好景気に沸いた。だがその高級住宅は暖房の費用がかさむため彼らにも敬遠され、一戸ごとの露出面の少ない高層マンションが人気を呼んだらしい。
方正から東に7キロメートルほどの伊漢通という集落へタクシーで向かう。川幅が1キロメートルにおよぶ松花江に面した伊漢通には沖縄県からの開拓団が入植した。開拓当時のかやぶきの民家が今も残存している。男性3人の人影が見えたので、声をかけて部屋の中を見せてもらった。オンドル(床暖房)の構造などは、かつて訪れた別の開拓団の民家と共通している。沖縄からの開拓民は、マイナス20度に及ぶ冬をどう耐えたのか。
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