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小説家 奥泉光はAIの進化をこう描く! 【インタビュー】現実はSFを超えるのか?

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AI、ロボット、VR(仮想現実)などの技術が生活に溶け込んだ21世紀末。世界的ロボット研究者から奇妙な依頼を受けたジャズピアニストが、人類の運命を揺るがす事件に巻き込まれていく──。

近未来の人間とコンピュータの関係をエンターテインメントとして描いた小説『ビビビ・ビ・バップ』が話題だ。作者の奥泉光氏はAIの進化をどう見ているのか。

『ビビビ・ビ・バップ』は2016年6月に発売。666ページの超大作 (撮影:田所千代美)

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もともと囲碁や将棋が好きなので、「AI対人間」の勝負みたいなものには興味を持った。ちょうど『ビビビ・ビ・バップ』の単行本化に着手していた頃、アルファ碁が韓国のプロ棋士に勝った。衝撃でしたね。

では音楽、特に私の好きなジャズではどうか。AIに即興演奏はできるのか。小説家としての想像力で書いてみたいと思っていた。

『ビビビ・ビ・バップ』には、ジャズフルート奏者のエリック・ドルフィーそっくりのアンドロイドが出てくる。主人公のピアニストとアンドロイドなどバンドメンバーたちがインタープレー(演奏家同士が刺激し合いながら行う即興演奏)をする場面があるが、アンドロイドは反応できず静止してしまう。小説なので「AIは何でもできる」と書いてもよかったが、現実に行われている議論を踏まえると、AIが人間のすべての思考プロセスを完全に再現するのは難しいと思った。

ジャズの即興演奏はAIも不可能ではない

ただジャズの即興はある種のパターンの組み合わせと見ることもできる。英国のジャズギタリスト、デレク・ベイリーは「ノンイディオム」という、過去の演奏家たちの即興パターンを踏襲しないプレーを目指したが無理だった。どんなに複雑に見えることでも、パターンの組み合わせにすぎないのだと思う。ものすごい計算速度で全パターンを網羅できるAIがあれば、実現できてしまうかもしれない。

では人間を人間たらしめているものとは何なのか。そのカギは「対話性」にある。人格というものは、人間が複数いるからこそ成り立つものだ。一人で即興演奏はできても、他人とセッションができるのかどうか。AIに対話性はあるのか、AI自身が共同体のようなものを作るのか。興味は尽きない。

一方、IoTのように何でもインターネットにつながっていくのは考えもので、たとえばスマートフォンが普及して皆幸せになったのか、と疑問に思う。情報伝達速度が上がることで感じる息苦しさがある。

主人公はどちらかというとテクノロジーに踏み込もうとしない。作品には街の中にある「ウェーブカット(電磁波遮断)」という、ネットワークから遮断される区域も繰り返し出てくる。小説の舞台である21世紀末にも、電磁波が届かない所にいたいという欲はあるだろう。

技術の発展というのは必ずしも研究者だけの問題ではない。AIやロボットやVRは今でこそ話題だが、技術だけ発展しても、それを具体化するだけの投資がないと普及はしない。おカネの落ちるところだけが伸びてきたのがこれまで。SF小説でいちばん難しいのは、社会経済的な予測を含んだ描写だ。おカネをかける人の多い歯科医の技術は急速に進歩したが、ごく少数の難病の治療法が確立されないといったことと同じ。だからこそ技術革新は資本の話と一緒に語られるべきだ。

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