有料会員登録 東洋経済オンラインとは
政治・経済・投資 #欧州激動

南北格差1 南欧諸国は復活するのか ギリシャ/スペイン/アイルランド/ポルトガル

8分で読める 有料会員限定
  • 田中 理 第一生命経済研究所 首席エコノミスト

[PART3 明日の欧州を読み解く]

 

[ギリシャ]反緊縮で挙国一致

欧州債務危機の火付け役となったギリシャで今、危機が再燃している。

そもそもの発端は2009年秋、政府の財政赤字隠しの発覚だった。単一通貨ユーロの高い信認に支えられ、財政赤字を垂れ流していた実態が浮き彫りになった。

資本市場での財政資金調達から締め出されたギリシャは10年、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)の金融支援下に入った。

以来、2度にわたる金融支援、債務交換や融資の返済条件緩和などと引き換えに、厳しい財政再建や構造改革を要求されてきた。

この間、ギリシャの国民所得のおよそ4分の1が失われ、危機発生前に7%台だった失業率は25%以上に上昇した。

EU主導による徹底的な緊縮が生活困窮を招く中、ギリシャ国民の不満は日増しに高まっていった。

今年1月の議会選挙はそうした緊縮疲れの不満をすくい上げる形で反緊縮を掲げる左派政党が勝利した。

反ユーロの旗幟を鮮明にして躍進するスペイン「ポデモス」のイグレシアス党首(右)と、ギリシャのチプラス首相(左)(ロイター/アフロ)
 

新政権のリーダーとなったSYRIZA(急進左派連合)のチプラス首相は「緊縮は国民の尊厳を傷つけている」と緊縮見直しを標榜。低所得層支援の拡充や最低賃金引き上げ、民営化計画の見直し、公務員の一部増員などが必要だと訴える。また過去の政権が十分な成果を上げていない汚職・腐敗の廃絶や脱税の取り締まり強化、既得権打破、規制緩和にも取り組むと約束している。

急進政権の誕生によって支援継続への不安感はにわかに高まった。

事実、ギリシャの銀行からの預金流出が加速しており、銀行危機が迫っている。このため、強気の交渉姿勢を崩さなかったギリシャ政府も歩み寄りを余儀なくされている。

2月末を期限とする支援プログラムの終了直前に、ギリシャ政府は構造改革の継続を約束する既存合意を受け入れた。支援提供国との間で4カ月間の延長で合意したものの、融資の実行には約束した改革条件の履行が必要となる。そのため、今回の支援延長後も目先の資金繰り危機が回避されたわけではない。

支援プログラム延長も資金繰り危機は残る

ギリシャ政府の財政資金はこのままでは3月中にも底を突くとみられている。さらにギリシャ政府が自力で財政資金を市場調達するのは困難な状況にあり、既存の支援プログラムが終了する6月末以降も、何らかの支援継続が必要となる。

[図表1]
拡大する

改革の具体策や緊縮見直しの可能性を協議するとともに、数カ月以内には新たな支援プログラムをまとめなければならない。ドイツをはじめとした欧州の支援提供国は、ギリシャのこれまでの改革努力に一定の評価を与えつつも、今後も改革を継続すると約束しないかぎり、支援継続や債務負担の追加軽減に応じるつもりはないと示唆している。

もっとも、当のギリシャ国民も緊縮見直しを貫いてユーロ離脱に追い込まれる事態を望んでいるわけではない。資金ショートが間近に迫った段階で、支援提供国へのさらなる歩み寄りを余儀なくされるだろう。

EU条約には、EUからの離脱手続きに関する規定はあるが、ユーロ離脱規定はない。EU離脱規定に従えば協議に基づく離脱はできるが、一方的な離脱や離脱の強制は認められない。ギリシャがユーロを離脱するのは、原則として、ギリシャ国民が離脱を希望し、それを他のEU諸国が認めた場合に限られる。ギリシャのユーロ離脱シナリオは、現状では可能性が低いといえる。

ギリシャのチプラス首相やバルファキス財務相は就任直後に欧州各地を歴訪。自国の反緊縮路線に同意する「ドイツ包囲網」を築こうとしたが、十分な支持を集めることができずにいる。ギリシャに甘い顔をすれば、他国でも緊縮見直しを求める政党への支持が高まるという警戒感が、ドイツなど支援提供国側の厳しい態度を生んでいる。スペイン、アイルランド、ポルトガルなど、かつての財政不安国が今回は一様にギリシャから距離を置くのは、ギリシャと同列視されて自国に危機が飛び火するのを恐れているためでもある。

[スペイン]危機に終止符も 反緊縮政党が台頭

スペインは、ユーロ導入後の資金流入加速と、2008年の不動産バブル崩壊で「カハ」と呼ばれる貯蓄銀行各社の深刻な経営難が表面化した。

巨額の銀行救済費用を自国のみで賄うことが困難となったため、12年央に銀行救済に使途を限定したEUの金融支援下に入った。ギリシャ、ポルトガルなどとはケタ違いの経済規模を誇る同国は、イタリアとともに「大きすぎて救えない国」とされ、当時、欧州の金融安全網の融資能力不足への不安をかき立てていた。

そうした不安を一掃したのが、ECBのドラギ総裁による「ユーロ防衛のためにはあらゆる手段を尽くす」との発言と、それを具現化した新たな国債購入策(OMT)だった。無尽蔵の国債購入能力を有する中央銀行が支えているとの安心感から、金融不安は大きく後退した。

14年初にはEUの金融支援から脱却し、銀行問題に終止符を打った。財政不安から解放された同国の経済は今、回復に向かっており、南欧再建の象徴となっている。

ただ、ギリシャ問題をきっかけに同国の政治リスクが高まっている。スペインはカタルーニャなど独立問題の火種を抱えてはいるものの、中道寄りの2大政党の支持基盤が強固で、政権運営は比較的安定していると目されてきた。だが、ここにきて新興の左派政党「ポデモス」が急速に支持を伸ばしており、2大政党を脅かす存在となっている(図表2)。

[図表2]
拡大する

ポデモスは市民の抗議運動を源流とし、財政再建や構造改革に逆行する政策を掲げている。既存政党に不満を持ち、高失業率や生活苦にあえぐ市民の支持を集めている。今年後半に予定される議会選挙で「台風の目」となりそうだ。

[アイルランド]危機早期克服も緊縮不満は増加中

アイルランドも、2007年に始まった不動産バブルの崩壊によって、巨額の銀行救済費用が必要になった。そして10年末、ギリシャに次いでEUとIMFの金融支援下に入った。

「ケルトの虎」と呼ばれ、欧州の優等生だったアイルランド。諸外国と比べて法人税率が低く社会インフラが整っており、国民の教育水準も高く英語が公用語とあって、多国籍企業の進出が相次いだ。

もともと高い国際競争力を有していたことに加え、金融支援下に入る以前から厳しい財政再建に取り組んでいたため、立ち直りは早かった。同国の場合、銀行救済が主な財政悪化要因であったことも幸いした。

政府の債務水準は高止まりしたままだが、信認が回復するとともに国債利回りが低下し、段階的な国債発行再開にこぎ着けた。

さらには債務交換を通じて、利払い負担の軽減や償還の先送りにも成功。13年末に金融支援から無事に卒業を果たし、危機克服の模範事例として称賛された。

[図表3]
拡大する

シン・フェイン党が反緊縮の受け皿に

危機を克服したかに見えるアイルランドだが、国民の間では長引く緊縮財政への不満が鬱積している。昨年の秋から冬にかけて、家計の水道利用に新たな税金を課す政府の方針に国民が猛反発し、数十万人規模の抗議行動が各地で発生した。

緊縮への不満を受けてこのところ左派政党「シン・フェイン党」の動きが目立っている。同党はかつて英国からの独立を目指す政党として結成されたが、最近では反ユーロ・反緊縮路線が追い風になっている。

一部ではシン・フェイン党は最多の支持を獲得しているという世論調査もある。次の議会選挙は16年春に予定されているが、勢いづく同党は選挙の前倒し実施を求め、与党に圧力をかけている。

[ポルトガル]14年に支援卒業。汚職、脱税は深刻

慢性的な低成長と競争力の低さが問題視され、2011年にEUとIMFの金融支援下に入ったポルトガル。

当初は「第2のギリシャ」と見なされた。国債発行の再開ができずに追加支援が必要となったギリシャと同じ道をたどるのではないか、との不安の声も広がったのだ。

しかしそれは杞憂だった。市場環境の改善に助けられた面もあるが、財政再建や構造改革に取り組み、14年央に無事に支援プログラムからの卒業を果たした。その間、財政再建の一環で導入した公務員給与の削減計画が“法の下の平等”に反するとして憲法裁判所から違憲判決が下されるなど、改革が危ぶまれる事態も起こったが、政府は給与削減に代わる増税策を打ち出し、財政再建の方針を堅持した。

必要な財政資金の大半の調達を年内にも終えるとともに、IMFの融資を前倒しで返済する方針を示唆しており、危機の波及封じ込めと財政の信頼回復に努めている。

今年の秋に議会選挙を控えるポルトガルでは中道右派と中道左派の2大政党の支持基盤がしっかりしており、これまでのところ反緊縮や反体制の政党への支持はそれほど広がっていない。ただ、前首相が脱税や汚職疑惑で逮捕されるなど、主流派政党のスキャンダルが相次ぐ。

既存政党への不満や反緊縮機運が盛り上がれば、ポルトガルにも政治リスクが芽生える素地はある。

こちらの記事もおすすめ

あなたにおすすめ

政治・経済・投資

人気記事 HOT

※過去1ヶ月以内に配信した記事の閲覧数