半沢淳一頭取「キーワードは“挑戦×スピード”」 三菱UFJ銀行「カルチャー変革」の現在地

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金融業界が、過去に例のない大きな変化の時期を迎えている。地銀は再編を余儀なくされ、メガバンクもこのままでは縮小しかねない。そんな中、三菱UFJ銀行は、未来に向けて自らを刷新すべく「カルチャー変革」を進めている。半沢淳一頭取のリーダーシップの下、次々と打ち出す施策の狙いと現場の反応について、前後編でお届けする。
後編「三菱UFJ、37歳経堂支店長誕生の裏にある改革」

銀行に求められる「変革」

「銀行を取り巻く環境の急速な変化に対応するには、私たちは自らを変革していく必要があります。ゆっくりしている余裕はありません」

そう危機感を口にするのは三菱UFJ銀行の半沢淳一頭取。低金利が長期化し、預金や貸出という銀行の伝統的なビジネスモデルだけでは大きな成長は難しい。一方で、デジタルシフトの波は金融界にも押し寄せ、異業種からの参入も増えている。何より、消費者の行動も大きく変わっている。銀行も変化しなければならない。

「ネットやスマホでさまざまな金融サービスにアクセスできるようになるなど、今までにない変化が起きています。同時に、それは金融サービスがよりお客さまに身近な存在になるチャンスでもあります。金融業界がまさに大きな変革期を迎えている中で、お客さまや社会に選ばれ続ける存在でいるために何をすべきか。一丁目一番地と考えているのは『カルチャー変革』です」(半沢頭取)

カギになるのが人材だ。三菱UFJ銀行では「挑戦×スピード」をキーワードに掲げ、行員の日常の行動パターンを変えることを目指した人事戦略を定めている。自律的・自発的に考え、チームの役割を自分ごと化してスピード感をもって行動・挑戦する行員を増やしていく。

「マネジメントの役割は、行員が積極的にチャレンジし続けるような仕組みや風土をつくることだと考えています」(半沢頭取)

三菱UFJ銀行
頭取
半沢 淳一

2021年4月、MUFG(三菱UFJフィナンシャル・グループ)は、「世界が進むチカラになる。」をパーパス(存在意義)に設定した。顧客、地域・社会、次世代、MUFGの仲間(MUFGで働く人たちとその家族)、そのすべてのステークホルダーが次へ、前へ進むためのチカラとして全力を尽くすと宣言している。

「行員一人ひとりが、自身の信念や志を見つめ直し、それを踏まえてMUFGのパーパスと日常の業務や行動を結び付けることが必要です」(半沢頭取)

行員自らが自律的に考え、チャレンジを重ねていくことが、社会課題解決をリードしていくことにもつながる。

きれいな資料は不要、用件は箇条書きで

2019年4月には人事制度も大幅に改定した。半沢頭取はその狙いを次のように話す。

「銀行というと、減点主義との印象があるかもしれません。もちろん、安心・安全な金融サービスを提供するためには、ミスなく行うことが重要な業務もあります。ただ、そのような領域でも、これまでお客さまに来店いただく必要があった手続きがスマホで完結できるようになる、といったように、利便性の向上に向けた改善の余地はまだたくさんあります。これまでにない新たな価値を創出していくには、失敗を恐れずチャレンジすることが欠かせません」

こうした考えを浸透させようと、半沢頭取はコロナ禍においても拠点訪問やテレビ会議などを活用して、行員との対話を数多く行ってきた。カルチャー変革は現場の士気が重要と考えるからだ。一方で、コミュニケーションの改善は、マネジメント層の間においても実行している。やはりキーワードはスピードだ。

「意思決定一つを取っても、何日も前から会議室を予約して、参加者のスケジュールを押さえてということをしていると、タイミングを逸してしまいます。迅速な決定が必要なものがあれば、直接私の部屋に来て相談してくれと関係者には伝えています。資料もきれいな図表を入れた大層なものを作る必要はなく、簡潔な箇条書きでいい。そうした作業は極力減らし、スピード感のある経営にしたい」(半沢頭取)

年間2000人応募の人事制度も

いくら方向性がしっかり定められていても、行員一人ひとりの行動が変わらなければ絵に描いた餅で終わってしまう。具体的施策とはどのようなものなのか。人事部の小林亜紗子氏は次のように語る。

「行員の『成長と挑戦の後押し』と『昇格から登用へ』がコンセプトです。行員一人ひとりが『真のプロフェッショナル』として、変化を先取りし、挑戦する人材へと変わることを目指しています」

人事部
採用・キャリアグループ
調査役
小林 亜紗子

公募制度として、希望する業務に自ら積極的に挑戦できる「Job Challenge」、業務改善などのアイデアを公募で募りその実現までを担う「Position Maker」、外部企業などに出向してスキルや専門性の幅を広げる「オープンEX」、留学や資格取得などのために一定の休業期間を認める「Challenge Leave」など多彩な施策が用意されている。

また、21年度には、在籍部署以外の業務を週1日程度経験する「社内副業」を本格展開したほか、この4月からは「社外副業」もより広く解禁し、行員の自律的なキャリア形成をいっそう後押しするという。

「これらの施策に応募してくる年齢層は20〜30代がメインではありますが、40〜50代の挑戦も増えています。『Job Challenge』全体では年間2000人の応募があり、その中でも『拠点長公募』は年間約250人に上ります。21年度の上期には20人が支店長に選ばれました」(小林氏)

これらに通じる特徴は「昇格から登用へ」、つまり年功ではなく「職務」に応じた人材活用を進めている点だ。そしてこれらとは別軸で、今の時代に欠かせないデジタル人材育成に関しても、正面から対応していく。半沢頭取は次のように語る。

「デジタルは、私たちにとって大きな武器になります。内部における事務プロセスの効率化だけでなく、お客さまの安心・安全と利便性を両立することができるでしょう。一方で、外部のパートナーとの提携によりお客さまとの接点を拡大することで、業務領域を広げることもできます」

そのために役員も含めた全行員を対象にデジタルリテラシーを向上させるためのプログラムを実施しているという。コア人材を育成するための選抜プログラムも実施し、意欲ある従業員の発掘・育成を行っている。外部資格取得などを基準とするデジタルスキル認定制度では報奨金も支給するなど、デジタル化を本気で推し進めている。

チャレンジングな人事制度を活用しようという熱は行内で高まり、応募人数も順調に増えてきているという。半沢頭取が示したカルチャー変革の「風土」が醸成されてきていることの表れだろう。

では、これらの実際の登用例にはどのようなものがあるのだろうか。後編では、「Job Challenge」と「オープンEX」を活用して、新たな挑戦をしている2人の若手行員に迫る。

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