三菱UFJ、37歳経堂支店長誕生の裏にある改革 若手登用「手を挙げなければ何も始まらない」

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前編で半沢淳一頭取が語った三菱UFJ銀行のカルチャー変革への取り組みが、現場で実を結びつつある。「就きたいポスト」「やりたい職務」を行員が自主的につかみ取る人事制度をスタートさせ、その応募数・合格数も年々増加しているのだ。その中でも、Job ChallengeとオープンEXを活用して、自らの変革に挑む若手2人に話を聞いた。
前編「半沢淳一頭取『キーワードは“挑戦×スピード”』」

自分は挑戦していなかった

「世間では銀行は変わらないといわれます。でも、私みたいなマネジメントの経験もほとんどない人間が支店長に抜擢されました。自分の人事ではありますが、そこに『やらせてみよう』という会社の本気度を感じました。銀行は変わる、それを身をもって今感じています」

三菱UFJ銀行
経堂支店長
井戸 智香子

そう笑顔で語るのは、三菱UFJ銀行経堂支店の支店長を務める井戸智香子さん。2020年度のJob Challengeの支店長公募に合格し、21年10月から現ポジションで働いている。

前編で触れたように、Job ChallengeとオープンEXは三菱UFJ銀行が取り組んでいる人事制度の名称だ。行員の「成長と挑戦」を後押しし、「昇格から登用へ」と舵を切ろうとしている。登用されたうちの1人が井戸さんだ。

井戸さんは07年に入行後、立川支店を皮切りに丸の内本部のトレーニー、神田駅前支店の法人営業部門、本部のM&Aファイナンス室、コーポレート情報営業部などを経て、Job Challengeに応募した。支店長としては最若手の年次だという。

「もともと銀行員を目指すきっかけになったのは、就職活動時に参加した、当行の女性総合職セミナーでした。当時そのようなセミナーをやっている会社は少なかったですし、私自身、一般職と総合職の差について深く考えていませんでしたが、セミナーの女性講師の方が、『総合職は選択肢が広がる』『選択肢は多いに越したことはない』とおっしゃったことが印象的で、ここで自分のやりたいことが見つかるかもしれないと思い、銀行で働きたいと考えたんです」

どちらかといえば、男性中心、年功主義などの古い体質が残っていると見なされがちな金融業界だが、井戸さんは環境に恵まれていたと話す。

「自分の直属の部署ではない先輩からアドバイスをもらったり、気にかけてもらったりと、教え合う社風があると感じました。先輩から受けた恩は、その先輩に返すのではなく、後輩に返していくという文化もあります。私自身も入行10年目に新人研修の講師になったとき、初めてこれからは今までの恩を返していく番なんだと実感しました。たくさんのよい上司や先輩に出会えたことで、自分自身が変わっていった実感もあり、私も魅力的な上司になりたい、と感じました」

しかし、20年の人事面談で井戸さんは、ふと自分が「受け身」になっていることに気づいた。今後のキャリアについて自分の言葉で語れなかったのだ。

デジタル化の波が金融業界にも押し寄せ、フィンテックベンチャーが続々と頭角を現している。銀行が旧態依然としたままでは衰退する――。そんな指摘が相次ぐ中で、会社が若手に奮起を促すような人事制度を打っているのに、「環境に甘えて自分は挑戦していなかった、自分自身で自分のことを考えていなかった」。そこから一念発起しJob Challengeの面接に挑み、21年3月に合格の知らせを受けた。

支店長になった今、井戸さんは驚きと刺激のある毎日を送っている。朝6時に起床し、朝礼のネタを仕入れるため新聞3紙を読み、仕事に臨む。経堂支店に勤務する行員の半分以上が井戸さんより年次が上。学ぶことも、発見も多い。

「支店長になって以来、毎朝開店して、いろんなお客さまのご要望に、真摯に誠実に接して、無事閉店していくことは、当たり前ではなく本当に大変なことだと実感しています。行員の皆さんが無事出社してくれて、かつ事故なく閉店を迎えると本当にほっとします。まったく違う部署からきた人間だからこそ、見えること、伝えられることがあると思っています」

Job Challengeで自らの未来を切り拓いた井戸さんは、キャリアで悩んでいる人たちに次のようなアドバイスを送る。

「挑戦とは前に、高みに、上に進むことだけではないと思っています。その人のその時の人生のフェーズに合わせていけばいい。大事なのは、自分で考えて、選択していくこと。そうすれば納得感もありますし、悩んだときに立ち返ることも、踏ん張ることもできます。『自分にはできない』と、考えることをやめてしまっては、何も起こりません。やりたいことを実現するにはどうすればいいのか、本当にそれはできないものなのか。そこを一つひとつ考えていくことが大事だと思います。キャリアを考えることは自分を知ることです。その意味で、Job Challengeは活用しがいのある制度だと感じています」

手を挙げなければ何も始まらない

現在、三菱UFJ銀行融資部新産業グループに所属する岡俊太朗さんは、2020年度のオープンEXに合格。21年7月から融資部に着任すると同時にITソリューション企業のUbicomホールディングスに出向し、週のうち融資部に4日、出向先に1日出勤するというユニークなワークスタイルで働いている。

三菱UFJ銀行
融資部
新産業グループ
岡 俊太朗

「当行には挑戦したい人を後押しする気風があります。支店で働いていたときも、自分で手を挙げる人に対して評価する雰囲気がありました。手を挙げて自分の希望がかなわなかったとしても、関係するポストを提示してくれるなど、マネジメント層は部下のことをよく考えてくれていました。一方で、手を挙げなければ何も始まらないとも感じていました」

岡さんは16年に入行後、烏山支店を経て、青山支店でアパレル企業やベンチャー企業を担当。現在の融資部新産業グループでは主にベンチャー企業を中心に企業調査や融資案件の審査を担当しつつ、週1回ほど出向先で投資関連の仕事をしている。入行して6年目だが、やりがいのある仕事が多く充実した日常を送っている。

「当行は今、銀行だけではなく、グループ全体でビジネスをすることを考えており、さまざまな金融サービスをお客さまに提供しています。お客さまから、『MUFGだからこそこの案件をやるんだ』『紹介してもらったグループ会社からの提案を受けて、新たな金融サービスを導入した』といった声をいただけたときは、本当にうれしく感じますね」

そんな岡さんも、新人時代には、顧客や仕事に真正面から向き合うことが十分にできておらず、実際に顧客から叱責を受けたこともあるとか。

「お客さまから相談を受けたとき、知識がないこともあって、グループ企業に紹介しっぱなしで、アフターフォローもせずにいたところ、お叱りをいただきました。その失敗をもとに今はどんな商品・サービスであれ、自分で紹介したからには最後まできっちりフォローし、目の前のお客さまのために何ができるのかという問いをつねに立てて、仕事に取り組むようにしています」

しかし、顧客と向き合い、MUFGの担当者としての自覚が芽生えてきた頃、今度はもやもやした思いを抱えることになる。青山支店時代に顧客であるベンチャー企業と多く触れ合う中で、そのスピード感や決断力に魅力と脅威を感じていたからだ。今のままでは銀行は技術力とスピード感のあるベンチャー企業に取って代わられるかもしれないとも思った。それでも、転職という決断には至らなかった。そんな時に、オープンEXという人事制度が目に飛び込んできた。

「これだ、と思いました。銀行に籍を置きながら、ベンチャー企業に出向できるという、僕にとってこんなにいい制度はありません。これから当行も総合金融サービスを指向する中で、自分の納得のいくキャリアを形成していくには、銀行だけでなく、ほかの領域も経験したいと考えていました。僕はまだ若手の部類に入りますし、フットワークも軽いし、誰とでも仕事ができる性格だと思っています。オープンEXでも公募の条件に合う人間は『自分しかいない』とアピールしたことで、受かったんだと思っています(笑)」

出向先のUbicomホールディングスで岡さんは現在、戦略的投資やM&A、デューデリジェンスの業務のサポートを行っている。

「20代後半ゆえ、目の前の仕事にぶつかってみて、わからなくて失敗しながらも、一つひとつ学びながら仕事を覚えていくことを許容していただける職場で、非常に貴重な経験をさせていただいています。海外とのやり取りも多く、そのスピード感や英語で厳しい交渉を進める姿をそばで見ていると、とても勉強になります」

オープンEXを利用して新たな成長の場をつかんだ岡さん。どんな将来像を持っているのだろうか。

「同期は皆、キャリアについて真剣に考えています。私も一度は支店長になってみたいという希望を持っています。それも新しい時代に対応できる支店長になりたい。キャリアの実現に必要な、成長企業に対する知見を高めるために、今、とてもよい経験ができています」

三菱UFJ銀行
頭取
半沢 淳一

若手に経験を積ませて、スキルアップを図るのはいいが、岡さんが出向先の仕事にのめり込み、今度こそ転職しないとも限らない。ほかの人事制度でも、結果的に若手が外部を触れることにつながり、「銀行を去る」という決断をしてもおかしくはない。それでも半沢淳一頭取は、こう語っている。

「行員が転職することを前提にしているわけではありませんが、それぐらいの覚悟を持って変革をしないと、世の中の変化についていけません。私たちはこれまで『金融サービス』を提供してきましたが、いずれは『金融』という単語すらなくなり、もっと幅広いサービスを提供する企業になっているかもしれません」

「総合金融サービス」から「金融」の文字を取る――。それほどの気概を持ってカルチャー変革に臨めば、銀行の未来も違ったものになるのではないか。動きが遅いとも指摘される巨大銀行だが、経営層と行員とで足並みがそろえば、そこからの変革スピードは案外速いのかもしれない。

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