人口6億人の巨大市場を取り込め!
動き出すASEAN経済統合と
日本企業の針路
Bトラック ASEAN(リスクマネジメント、経営管理)
基調講演B-1
ASEAN各国を取り巻くリスクと
保険リスクマネジメント
海外進出する日系企業のリスクマネジメント、保険手配を支援するマーシュブローカージャパンの平賀暁氏は、世界経済フォーラムの報告書に取り上げられているグローバルリスクについて説明。「リスクは単体で終わらず、派生・連鎖することを念頭に置くべき」と強調した。
ASEAN地域のリスクは、経済状況の改善に伴いポリティカルリスクは低減傾向にあるものの、タイの洪水、インドネシアの干ばつ・山火事など自然災害リスクは高い。リスク処理には、BCP(事業継続計画)の策定やリスクの洗い出しによって、優先順位を決めて損失低減にあたるリスクコントロールと、保険活用したリスクファイナンスの2つがあり、平賀氏は「保険はすべてのリスクに対応できるわけではないが、自然災害リスクには有効」と訴えた。
続いて渋谷俊一氏が、リスクの集中管理と、一括交渉によるスケールメリットを生かした保険コスト効率化に向けて、同社が提供する保険プログラムを紹介。「アジア包括財物保険プログラム」は、各グループ企業が、それぞれに保険を手配した結果、直接罹災企業の損害は補償されても、サプライチェーン寸断によって生じる利益損失がカバーされない事態を防ぐ。また、海外企業への掛け売りの増加に伴うリスクに対処する「グローバル取引信用保険」は、保険会社が取引先企業に対して個別に信用限度を設定し、かつモニタリングをするので、貸し倒れによる損害をカバーするだけでなく、日本本社での与信管理にも有効。
渋谷氏は「世界にネットワークを持つ国際保険ブローカーを入れてグループ全体を見渡した保険設計をすることが重要」と述べた。
特別講演B-2
デンソーのASEAN戦略
~新たな環境変化への対応~
自動車部品サプライヤーのデンソーは、1970年代に自動車の国産化規制に対応してタイなどに進出して以来、ASEAN域内での効率的な生産体制の確立を図りながら、近年の経済成長に伴い事業拡大も進め、8カ国21拠点で展開している。同社の加藤宣明氏は「政策・環境に対応する従来の戦略では変化のスピードに追いつけない。
大きな変化をチャンスと捉え、変化を予測して先手を打ち、持続的成長を目指す」と、ASEAN戦略を語った。今後のASEAN市場について、
①所得水準の上昇に伴う交通安全意識の高まりやモータリゼーションの拡大
②ASEAN経済共同体や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)等の貿易自由化による巨大市場の成立
③シェア競争激化と各国自動車政策における環境・安全関連規制整備の加速を予測。
それに対応するため、ASEANで普及可能なコストを前提にした製品開発や、貿易自由化進展を見据えた生産供給体制の再構築、同社が「深層現地化」と呼ぶ生産設備、部品、材料調達の現地化を進める。また、マネジメントを担う現地人材の育成にも注力。「地域社会の発展なくして企業の成長はあり得ない」という考えを基本に地域発展に貢献し、同社が長期目標に掲げる環境維持、安全・安心な社会づくりの推進を図る。
加藤氏は「日本は成熟市場だが、日本を含めたアジア市場はまだまだ成長市場にある。日本企業の競争力の源泉である、技術力、品質、生産性に磨きをかけ、ASEAN、アジア、世界でのデンソーグループの存在感を高めていきたい」と述べた。
基調講演B-3
ASEAN進出の日本企業を支える
ITとその課題
日立システムズの奥出聡氏は「日系企業のグループ経営管理の高速化、グローバル対応などの課題を解決するには、グローバルITガバナンスが重要」という考えを示した。ITに関するリスクやリソースのマネジメントを推進し、IT投資と効果・リスクマネジメントを継続的に最適化するITガバナンスについて、同社は、管理コード共通化、ERP導入などで支援する。
ASEANの現地企業は、体制の未整備によるセキュリティリスクも深刻である。奥出氏は「当社のアジア拠点網と、日立グループのグローバル体制を整備した経験を生かし、お客様をサポートする」と語った。
続いて、エルティ総合法律事務所所長の藤谷護人氏が「ASEAN化を進める多くの日本企業は、ITリスク問題の本質を見逃している」として、海外子会社に仕事を再委託する際の注意点を訴えた。
海外子会社は、法制度や社員のモラルが日本と異なり、内部統制力も不十分で、本社からの統制も及びにくいという構造的脆弱性を抱えている。また、外部からの脅威への備えはあっても、内部からの漏洩等を抑止する対策は怠りがちになる。藤谷氏は「現地化することで、リスクと脅威は国内よりも数段大きくなることに気づかなければならない」と強調した。
さらにリスクコントロールが不十分な子会社への再委託によって、情報漏洩などの損害が発生すれば、善管注意義務違反に問われることにもなる。
藤谷氏は「リスクをコントロールできなければ、ASEAN化(安い労働力)という経営技術を利用することを"社会的に許す法理"はなくなってしまう。基本から、情報セキュリティの意味を問い直していただきたい」と述べた。
特別講演B-4
マニーのASEANにおけるビジネス展開
医療機器メーカー、マニーは、ベトナムを皮切りに、ミャンマー、ラオスに生産拠点を展開してきた。同社会長の松谷正明氏は「労務費の安い海外で生産して、検査時間を充分にかけられるようにすることで、品質向上を図ることが目的だった」と、ASEAN地域への工場展開の歴史を振り返った。
手術用縫合針などニッチな分野の世界市場に、高品質製品を供給する戦略で、高い営業利益率を保つマニーは、年間売上100億円規模の企業。円高の影響で、日本国内では「世界一の品質」を実現するために必要な製品検査時間の確保が難しくなったことから、1996年にベトナムへの進出を決めた。
同社のオペレーションは熟練がカギになることから「最大のリスクは人材の引き抜き」と考え、他企業から距離をとるために、都市部から離れた場所に工場を建設。現在、ベトナムにある子会社は2000人の従業員を抱える同社最大の生産拠点に成長した。さらに99年にはミャンマー、2009年にはラオスにも進出している。
ミャンマー進出の際は、日本で研修していたミャンマー人社員が失踪するといった問題も発生したが、現在は、ベトナム人の研修は日本、ミャンマー、ラオス人の研修はベトナムで行う体制で順調に運営している。特に、ベトナム子会社の従業員は離職率0.2%で、人材を維持できている。
松谷氏は「ミャンマー、ラオスの子会社にはベトナム人の副社長を任命。ベトナム人幹部は日本での課長会議にも定期的に出席してもらい、マネジメント教育をしている」と述べ、モチベーション向上策と相手をリスペクトすることの重要性を強調した。