小沢氏復権には「裁判での白黒」と「説明責任」の二つの関門

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小沢氏復権には「裁判での白黒」と「説明責任」の二つの関門

塩田潮

 小沢元民主党代表に対する東京第5検察審査会の起訴議決が公表された10月4日、新聞の号外が出た。大事件である。「強制起訴へ」の大見出しが躍る。

 これまでは現職の議員が起訴された場合、ほぼ例外なく離党や除名となった。3週間前に首相の座を争った大物政治家だ。政治の行方を大きく左右する出来事だから、号外が出ても不思議はなかった。

 ところが、小沢氏は7日、「そのような意思はない」と離党や議員辞職を全面否定した。

 その小沢氏が師と仰いだ田中元首相は1976年7月、ロッキード事件で東京地検に逮捕されたとき、真っ先に紙とペンを取り寄せ、自民党離党届を自書した。容疑を認めたからではない。即離党は、検察に逮捕されたからだ。

 刑事訴訟法の起訴独占主義と起訴便宜主義によって、起訴の権限を一手に握る「法律のプロ」の検察が逮捕・起訴する以上、準司法的な判断だから、ひとまず社会的な責任を果たさなければと田中氏も考えたのだろう。

 だが、検察審による強制起訴の場合は、同列には論じられない。「検察による起訴=容疑者・被告人=クロのイメージ」という図式は成り立たなくなった。

 今回の議決でも「公正な刑事裁判の法廷で黒白をつけようとする制度」と説かれているように、「黒白はこれから裁判で」ということだから、この段階で小沢氏が辞職や離党を拒否するのは間違いではない。

 さらに検察による供述調書の信用性、検察審の審査や議決の不透明さ、独自に犯罪事実を付け加えた「越権」の問題など、現行制度の問題点も明らかになってきた。当初は「起訴=離党あるいは辞職」という従来の固定観念で小沢氏の処分問題を考える空気が強かったが、菅首相も岡田幹事長も「本人の判断で」という線を踏み越えようとしない。

 だが、ここまでは司法上、刑事上の責任の問題だ。政治的責任は別の話である。小沢氏が民主党の国会議員として活動を続けるなら、進んで国会の場で反対党の質疑や追及を受ける形で国民に向かって説明を行う必要がある。疑惑が深まったり、新たな疑惑が浮上するかもしれない。反対に疑惑が晴れ、その結果、国民が納得して政治活動続行にお墨付きを与える可能性も、もちろんある。

 復権やトップの座への再挑戦は、「裁判での白黒」と「説明責任」の二つの関門をくぐり抜けて初めて可能になる。

 道は遠く、険しいかもしれないが、先の代表選で「逃げない」と宣言した小沢氏はこの道を進むしかない。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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