東京で「世界で3カ所」の星空が見られる理由 子どもたちが後世に残したいと思える故郷
2020年12月に星空保護区に認定された神津島。島全体が認定されたという特徴から「ダークスカイ・アイランド」の呼称を使用することが許されている。世界に約190カ所(22年1月現在)ある星空保護区のうち、「ダークスカイ・アイランド」は3カ所しかない。
「神津島は、調布飛行場から約45分と都心からのアクセスがよく、島の中心部から徒歩圏内の場所ですばらしい星空が見られます。これは、ほかの保護区ではそうそうない特徴です。また、海の水平線上に広がる星空や、山の上を流れる天の川など、島ならではの絶景も楽しめます。
以前の島内の屋外灯は、光が空に漏れていたのですが、保護区の認定に向けて、明るさを抑えられる電球色で、光が空に漏れないものに順次、取り替えていきました。そうすることで、星がよりいっそう見やすくなりました」(国際ダークスカイ協会東京支部の上野貴弘氏)
持続可能な社会に向けて必須となる学びとは?
国際的な認定制度への挑戦は、観光政策の一環としてみられがちだ。もちろん、そのような側面もあるが、神津島は、何よりも島の環境保全に重きを置いている。
小学校での子どもたちの取り組みがいい例だろう。
星空保護区の認定を受け、島内の小学校では、6年生の総合的な学習の時間に、星空を生かした街づくりや観光業の発展、星空を含めた島の環境をいかに守るかについて授業を行った。
まず、村役場や観光協会に聞き取りを行いながら、島の産業や環境の現状、光害(ひかりがい)※2に関する基本的な知識をインプット。その後、島民約320人にアンケート調査を行い、星空を生かした観光や光害に対する関心度を聞いた。結果、同じ島民であっても、温度差が大きいことがわかったという。
そこで、島民に向けて子どもたちが星空の魅力をプレゼンテーションするイベントを実施。授業で学んだことの発表に加え、神津島の星空をイメージして作った歌を披露したり、自分たちで作った星空のカレンダーを配布したりした。参加者の中には、感動で目をうるませる人もいたという。
「星空保護区の認定の話を聞き、子どもたちの学習に生かさない手はないと考えました。星空のための光害対策は、動植物を守ることにもつながり、ひいては人間を守ることにもつながります。環境に配慮して生活することの大切さを子どもの頃から学ぶことで、その後どこで暮らしても、何歳になっても、環境を破壊するような人間にはならないのではないでしょうか。
こうした学びは今後、持続可能な社会において必須となるはずです。だからこそ、1回や2回で終わらせるのではなく、この先も継続していきたいと考えています」(神津島村立神津小学校教諭の武田陽介氏)
リモートワークやワーケーションの滞在先としても注目
神津島には、星空以外にも“ならでは”の魅力がある。その1つが天上山だ。
「天上山は『花の百名山』に指定されているとおり、四季折々の花が見事で、季節ごとに違う表情を楽しめます。登山をしながら見える海は、島だからこそ楽しむことができる景色です」(神津島観光協会事務局長の覺正恒彦氏)
豊富な水産資源も魅力の1つだ。
漁業が盛んで、中でも高級魚の金目鯛は、漁獲量の約6割を占めるという。島内には、島で水揚げされた新鮮な魚を提供する飲食店があるほか、干物や瓶詰めにされた海産物が並ぶ商店などもある。
「これまでは、海水浴やダイビング、釣りといった夏のアクティビティーを楽しむために来島する方が多かったのですが、星空保護区に認定されたことで、年間を通して観光客に来ていただけるようになるのではないでしょうか」(覺正氏)
同島観光協会では16年から、星空ガイドの育成に注力するとともに、星空ガイドの島民が案内する「星空観賞会」を開催している。島民ならではのエピソードも聞けるこの観賞会も、神津島観光の目玉となっている。
また近年は、リモートワークやワーケーションの滞在先としても注目されている。
日中は波の音を聞きながら仕事をして、働いた後は温泉に入り、新鮮な魚を食べ、星空を眺めて一息つく。仕事がない日は、さまざまなアクティビティーを楽しむ。年に複数回ある流星群の時期に合わせて訪れるのもいいだろう。
そんな働き方であれば、仕事のアウトプットも普段とは違ったものとなりそうだ。もし何かあっても、すぐに都心に戻れるという安心感もある。
神津島には、過度に観光地化されていない、飾らない魅力がある。少し見方を変えれば、環境保全やリモートワークなど、ニュースタンダードといえる価値観や新たなライフスタイルともリンクする。自然を愛する人や旅好きにはもちろん、第一線で働くビジネスパーソンにとっても、新たな活力を得るのにふさわしい場所といえるのではないだろうか。