リダンダンシーでインフラ老朽化リスクに備えよ 「リニア中央新幹線」が未来に果たす役割
長く使い続けるためのインフラ再生の時代へ
――高度経済成長期に整備された東海道新幹線や首都高速道路といったインフラの多くは、完成後すでに半世紀を超えています。老朽化の現状をどう見ておられますか。
前川 橋梁や道路、トンネルといったコンクリート構造物は、確かに経年とともに性能や品質が変化しますが、そのすべてが一律に危ないという見方は違います。コンクリートの寿命の決め手は、いわば生まれと育ちです。最初の設計・施工段階でどれだけ品質を上げ、信頼性を高めるかで、耐久性に大きな差が出ます。加えて、点検・補修といった日常的な維持管理が極めて重要です。それらが万全であれば、100年は優に生きられるのが社会基盤施設です。
千葉県鴨川市のJR内房線に架かる山生(やもうめ)橋梁はその好例でしょう。1924年の建設で海岸線にありながら、今も鉄筋の腐食などはほとんどなく、コンクリート構造物の長期耐久性を実証する歴史的土木遺産として知られています。
コンクリート構造物が劣化するのは、内部の鋼材が水分や塩分などに侵され腐食するのが主な原因です。それらを見越して構造物の形や材料を適切に選定し、排水などの工夫を念入りにすれば世紀を超えて長持ちします。
――そうすると、老朽化リスクの見極めが重要になってきますね。
前川 「生まれ」について考えてみましょう。日本の都市インフラの大半は、戦後の焼け野原に建てられました。特に1960年前後からの十数年にそれは集中し、年率3割増で量が拡大していきました。その間、事業規模は何十倍にも膨れる一方、設計・施工に携わる技術者の数はわずかに2倍強です。資材も奪い合うような状況で、すべての品質が担保できたでしょうか。今あるインフラの約6割が、その当時にできた構造物です。
造り替えればいい、という話ではありません。ビルなら30〜40年で建て替えも可能ですが、道路や鉄道、上下水道は難しいでしょう。有効な手を打たなければ、補修や更新を繰り返し、再生しながら使い続けるしかありません。
予防保全と二重系化で100年先を見た戦略を
前川 老朽化といっても、重症もあれば軽症もあります。国土交通省の点検調査によると、道路の橋梁・トンネル等で緊急措置を要するものは未だ少ないものの、今後、急速に高齢化します。しかし、まだ手を打てる段階にあります。絶えず現場を見て記録し、症状を見極めることが第一歩です。
ただし、軽症だからと放置してはいけません。80年代以降は技術も進み、耐久性に優れた建造物が増えましたが、日々の歯磨きのように、軽いが継続的なメンテナンスは必要です。手入れを怠れば途端に劣化が進みます。今すぐの措置は不要と思える段階から、予防保全の手を打つこと、これが維持管理の理想的な着地点だと思います。これまで十分にそれがなされてこなかったことが問題で、まさに今が、老朽化リスク回避の最後のチャンスだと私は見ています。
――予防保全は優先順位のつけ方が難題といえそうです。
前川 それは経営の問題でもあります。限られた予算と時間をどう配分するか、50年先、100年先を見据えた戦略が必要でしょう。放置すれば短期的にコスト削減になっても、障害が起きたときの損失は甚大です。痛みが軽いうちに手を打てば、長い目で見てコストは下がります。皆さんの虫歯の治療と同じだと思ってください。
その意味で、古くから保線の考え方が根づいた鉄道の維持管理は堅実といえます。橋梁やトンネルの多い東海道新幹線でも、予防保全のための大規模改修工事を進めていると聞きました。この沿線は日本経済を支える大動脈ですから、順当な長期戦略といえます。
ただ、交通インフラについては私はもう一歩、必要な対策があると感じています。航空機になぜエンジンが2つあるか、新東名高速道路(第二東名)がなぜ必要かを考えたらわかりますよね。
――二重系化をするわけですね。
前川 「リダンダンシー」といいます。どちらかに支障が出ても代替可能で、2つ同時にトラブルに遭う確率も低いため、交通断絶リスクが下がります。そういう観点で、東海道新幹線のバイパスとなり得るリニア中央新幹線の価値は大きいと思います。災害だけでなく、設備更新による長期運休も考えられますから。インフラに求められる機能が世代を超えて変化し、再生更新されるのは、歴史が示すところでもありますね。
日本のインフラは第2ステージに入りました。100年先まで見越して、堅実で安定した交通サービスを提供するために、戦略的投資が求められる時代が来ています。