本気で定着させるための、
日本版スチュワードシップ・コード
導入のポイント
投資先企業のガバナンスに関して
機関投資家に大きな期待
九州大学大学院 経済学研究院教授の内田交謹氏は、「今回の日本版スチュワードシップ・コードに関して、特に、機関投資家による投資先企業のコーポレートガバナンスに関する期待が非常に大きい」と語る。
内田氏はコーポレートファイナンス、ガバナンスが専門で、特に企業価値の統計的な実証分析においては日本を代表する存在だ。
内田氏は、コーポレートガバナンスに関する機関投資家への期待について「一般の個人投資家に比べて機関投資家は情報収集によるモニタリング能力があり、一定の株式を保有することで企業に影響力を及ぼすことできます」と特色を説明する。米国ではその働きが顕著だという。1980年代後半には、『ウォール・ストリート・ルール(投資先企業の経営に関して不満があれば、その企業の株式を売却する)』から議決権行使による『物言う株主』へとコーポレートガバナンスの流れが大きく変化した。
「それに対して、日本のコーポレートガバナンスは、伝統的に銀行中心のガバナンスでした」。 内田氏の解説によれば、高度経済成長期には銀行中心のガバナンスが一定の機能を果たしたという。ただし、その後の銀行離れにより、銀行中心のガバナンスの有効性は低下した。90年代の前半に、バブル経済期の日本の過剰な投資が起きたのは、まさにコーポレートガバナンスの空白状態があったためだという。
機関投資家によるガバナンスの
「直接効果」と「間接効果」とは
内田氏は「コーポレートガバナンスは、不祥事の防止という観点で話題になることが多いのですが、今回のスチュワードシップ・コードの公表では、長期的な株式価値の向上のためのガバナンスであることが明示されているのが重要な点です」と指摘する。
具体的には、投資先企業に対するモニタリングやアドバイスを行うことで、総資産利益率(ROA)や株主資本利益率(ROE)の改善を目指すといったことだ。
内田氏はさらに「機関投資家のコーポレートガバナンスにおける役割には、大きく『直接効果』と『間接効果』の二つがあります」と説明する。
以下、内田氏の説明によれば、「直接効果」とは、不採算部門からの撤退や、不適切な多角化、M&A、過剰な内部留保・余剰資金に対する警鐘など、財務政策に直接働きかけるもの。対して「間接効果」とは、ガバナンスのあり方そのものを改善しようとするものだ。「直接効果」の例としては、ヘッジファンドによる株式大量保有などの際に株価が上昇することが挙げられる。日本では評価が分かれるが、米国などでは前向きにとらえられることが多いという。
「間接効果」については、興味深い実証研究もあるようだ。たとえば、「コーポレートガバナンスの世界旅行」と呼ばれるものだ。これは、米国などの機関投資家が世界中で運用することによって、社外取締役が増えたり、最高経営責任者(CEO)と取締役会議場の兼任が減ったりといったように、ガバナンスが改善される企業が、世界中に増えていくというものだ。「間接効果」の他の例もある。韓国でコーポレートガバナンスファンドがターゲット企業の株式を買い付けたところ、他のガバナンスの弱い企業の株価が同時に上昇したという。
「日本の企業は、株主価値重視に徐々に移っているとはいえ、まだ途中経過です。国内外の機関投資家は、これまでも議決権行使などで、一定の機能を果たしてきましたが、今回のスチュワードシップ・コードの共有、明示により、株主の観点からのガバナンス強化、株式価値の向上の動きが加速されていくと、日本の株式市場はもっと強くなるのではないでしょうか。大いに期待しています」と内田氏は結んだ。