真のクラウドがもたらす、グローバル標準の
リアルタイム経営と未来志向の財務戦略
―DeNA、Kiiが挑んだ迅速なグローバル展開の検証―
【事例講演】
「元IFRS担当官が挑む、シリコンバレー式、迅速なグローバル展開」
情報をクラウドに簡単に同期できるバックエンドテクノロジーは、これからのスマート社会構築に欠かせないIoT(Internet of Things、モノのインターネット)を支える技術の一つとして注目されている。Kiiは、この技術分野で注目を集める、気鋭のスタートアップ企業だ。
そこに昨年9月に入社した齋藤和紀氏の使命は、将来的に上場やM&Aなどの出口を探ることになるベンチャーキャピタルや、経営陣の意向を踏まえて、連結決算の作業期間短縮、内部統制の強化、経営指標の見える化を進めることにあった。
外資メーカーにて日本グループの経理部長、政府のIFRS担当官を経てきた齋藤氏は、まず1カ月かけて、さまざまなERPを検討した。同社は、日本、米国シリコンバレー、中国などにグローバルに拠点を持つことから、マルチ言語・通貨対応は外せない。また、スタートアップ企業として「キャッシュは本業への投資に回し、システムは固定費にしないクラウドサービスが適している」という判断もあった。その中で、過去最速レベルの短期導入を目指すというこだわりに理解を示したのがネットスイートだった。
Kii創業者の荒井真成、鈴木尚志の両氏は、欧米系著名IT企業で要職を務めたことで知られる。そのためか、同社も、習うより慣れろ(Fail fast)、機能を絞る代わりに短期導入(Lean startup)、遅延は機会損失という意識を持ち、完璧を目指しすぎない(Done is better than perfect)といったグローバルITの影響が色濃くある。社内の議論でも「シリコンバレーの中規模ベンチャーで最もスタンダードな業務基盤として実績がある」というネットスイートへの支持は強かった。
齋藤氏は「ネットスイートのプロセスに合わせたことで、監査法人からも高く評価される内部統制フローを確立できました。事業の急速な拡張に対応しながら運用できており、立ち上げのスピードに重点を置いて良かったと思います」と語った。
第二部【基調講演】
「情報に本気で投資する時代
~経営者が今考えるべき投資のポイント~」
IT環境は、この10年で劇的に変化した。店舗に行く手間を省ける便利さから、消費者の間には、インターネットショッピングが広く浸透した。一方で、消費者への対応のまずさ、一度のミスがネット上に拡散するリスクを踏まえ、ECにかかわる企業のカスタマーサポートはユーザーの声に迅速に対応し、マネジメントも、商品・サービスの改善を早めることが求められている。事業会社のCFO経験もある日之出監査法人の羽入敏祐氏は「このスピード感は、ほかのビジネスにも波及していくだろう」と予想する。
しかし、一般企業の場合、スピーディに判断することは難しい。「その原因は、フロントオフィスとバックオフィスの情報がつながっていないことにある」と、羽入氏は指摘する。管理部門は、重要な情報を貯め込み、他部門から隔離する形で管理しているのだ。さらに、管理は価値を生まないという固定観念が根強く、営業などのフロント部門に比べて、バックの管理部門へのシステム投資が滞るので、情報管理のあり方は改善の機会がない。その結果、管理部門の業務は、同じ社員が長年続ける属人化、ブラックボックス化が進み、業務コストも削減できない状況に陥る。羽入氏は「投資をしないことは、思考の老化、プロセスの劣化という重要なリスクをはらんでいる」と警鐘を鳴らす。
「情報環境はできるだけ早期に整えるべきだ」と羽入氏は訴える。今では、NetSuiteなどクラウドサービスの登場により、従来は、投資コストが重かった業務基盤システムも導入しやすくなった。システム導入は業務フローも見直す好機になり、社内でバラバラだった情報をつなげることで、経営判断はスピードアップする。羽入氏は「これからの管理担当者は、経営判断に資する情報を迅速に提供するための業務プロセスの未来図を描き、そこに向かって投資することが大切な役割になる」と語った。