キャリアアドバイザーが語る「本当に良い転職」とは何か 迷っているなら、「とりあえず」動いてみる

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転職をしないという選択肢を含め
その人に合ったキャリアプランがある

――必ずしも転職を奨めるというわけではないのですか。

キャリアデザインセンター
エキスパートキャリアアドバイザー
伊藤泰子

転職をお考えの方の中には、現職の会社の中での可能性をまだ探っていない方もいらっしゃいます。何かやりたいことがあったとしても、上司に自分の希望を伝えたり相談したりせずに「どうせ言ってもこの会社では無理だ」と決めつけ、自分の希望を叶えるためにはもう転職するしかないと思い込んでいたりするのです。そういうときには「試しに上司の方に一度相談してみたらどうですか」とアドバイスすることもありますね。
 転職は、得るものばかりとは限りません。失うものもあるのです。そこをきちんと理解せずに『転職して新しい環境にいけばすべてうまくいく』と思い込んでいる方には、その点を指摘しています。転職の目的は人それぞれで、キャリアの構築、年収アップ、プライベートの充実、労働環境の改善など様々ですが、単に現職に不満があるなど勢いだけで、目的を明確にしないままの転職は大変危険です。
 実際に、年収や会社のネームバリューだけで転職先を選んでしまい、自身のキャリアに広がりのない業務内容になってしまった人もいます。何を目指して転職するのか、その目的は本当に今の会社では実現できないことなのか、そういう見極めが非常に大切です。

――転職で失うものとは何ですか。

「隣の芝は青く見える」と言いますが、規模は小さいけれど自由な社風だったとか、何でも自由にやらせてくれたとか、勤めているときにはわからなかった自分の会社のよさが、離れてみて初めてわかるということもあります。転職で失うものは人によっても違うでしょうが、100%得るものばかりではないということは理解しておいたほうがいいと思います。

――アドバイスの結果、「もう一度今の会社で頑張ってみよう」という人もいるのですか。

「3カ月間、目標を持って今の会社で頑張ってみます!」と言って、そのままその会社にとどまる方もいますし、逆に「いろいろやってみたけれど、やはり今の会社では無理だった」といって、また相談にいらっしゃるケースもあります。アドバイザーからの意見はご自身を見つめ直すきっかけにしていただければよいので、その結果はどちらでもいいのです。
 「転職=キャリアアップ」というわけではありません。その人その人に合ったキャリアプランがあるのですから、私たちと関わることでそこに気づいてもらい、自分で自分の人生を掴み取ってほしい。いつもそう思いながらアドバイスするように心がけています。

成功する転職者の共通点は「謙虚さ」
素直に聞く耳を持つことが重要

――転職において、うまくいくパターンはありますか。

相手の言うことに対してきちんと聞く耳を持っている人は、転職もうまくいくことが多いようです。私が転職のお手伝いをした大手外資系企業にお勤めの方は、マネジメントに関わる仕事がしたいと希望して20代後半のときにIT系のコンサルティング会社に転職しました。そこでも十分に活躍し、会社からも評価されていたのですが、事業会社で海外と関わる仕事がしたいと考え、そのタイミングでもう一度転職のご相談をいただき、お手伝いをしました。
 希望をお伺いしたうえで大手ゲーム会社をご紹介したのですが、最初は「こちらの求人には応募しません」と言われてしまいました。理由を聞くと「ゲームには興味がないし、ゲーム会社は嫌です」とのことでした。確かにご紹介した会社はゲームの会社というイメージが強く、ゲームに抵抗を感じる人は応募を見送ってしまう企業なのかもしれません。この方の反応も理解できるのですが、私たちは企業にお伺いして仕事内容や今後の事業戦略などの情報も知っていましたので、ゲーム以外の事業を行っていることや海外との関わりもあることをお伝えしました。ご紹介した理由をしっかりお伝えした結果、この会社に転職し、今では東南アジアにあるその会社の拠点に赴任し、現地のナンバー3のポジションでものすごく活躍していると聞いています。自分の思い込みで応募企業を決めるのではなく、「転職で叶えたいこと」を明確にして素直な気持ちで活動することが転職成功の秘訣ですね。
 もう一人、外資系コンサルティングファームでマネージャーとして活躍していた方の転職をお手伝いさせていただいたのですが、この方は慢性的な残業による今後の体力的な不安やご家族との時間を確保できないことに懸念を感じていました。長期的に就業できる環境を探しているということで、ご希望を踏まえて求人をご紹介したのですが、年収が100万円以上下がることを憂慮し、この企業に応募するかどうか悩まれておりました。残業が少なく、ご家族との時間をしっかり取れる環境だとお伝えし、応募企業のひとつとして選考に進んでいただきました。内定をもらった後もご家族のことがあるので年収の面で悩んでおられましたが、お電話で納得いくまで話し合い、当初望んでいた『長期的に就業できる環境』であることを納得してもらいました。
 年収はダウンしましたが、現在は事業会社側で残業時間も月平均20~30時間となり、ワークライフバランスの保てる生活を送っていらっしゃいます。「いろいろと悩んだけれどこの会社に決めてよかったです。家族との時間が増え、楽しく過ごしています。」とご連絡をいただいたときは、とても嬉しかったですね。転職活動をする中で価値観や転職の軸が変わることもありますが、アドバイザーと共に初心に立ち返ることで納得感のある転職ができると思っています。
 一方で驚いたのは、内定が出た後にWEBの口コミ情報を見て、内定を辞退されたケースです。自分の実力をもっと発揮したいという志向の方でしたので、仕事の自由度が高い企業をご紹介したのですが、インターネットで企業のことを調べたところ激務だと書いてあったということで残念ながら辞退となりました。インターネットの情報もうまく活用してほしいのですが、それだけに囚われてしまうとせっかくのチャンスを逃してしまうと思います。
 自分一人で考え込んでいると、独りよがりになりがちです。自分の先入観で転職の幅を狭めてしまうのではなく、いろいろな人に相談し、素直に聞く耳を持つことは、転職を成功させるうえでとても大事なことだと思います。

――今、転職を考えている人は、どういう準備をすればいいでしょうか。

まず、転職の目的をはっきりさせることです。そこがしっかりしてないと、あとでぶれやすくなってしまいます。転職エージェントに相談してみるのもいいですし、機会があれば異業種交流会のような外部の人と直接交流できるコミュニティに参加して、情報を収集するのもいいですね。ひとつの会社にずっといると周りが見えなくなりがちですが、外部の人と交流することで刺激になりますから。勉強会などへ参加してスキルを高めたり、自分磨きをしたりするのもいいでしょう。転職するかどうかに関わりなく、若いうちは自分への投資を惜しまないことが大切です。何かテーマを決めて一所懸命取り組むなど、ぜひいろいろなことにチャレンジしてほしいと思います。

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