日本のベンチャー企業はもっと大きな志を持って
企業価値の高い会社を目指してほしい
クオンタムリープ株式会社
代表取締役 ファウンダー&CEO
出井 伸之
ベンチャーを育む生態系が日本にはない
――なぜ、米国シリコンバレーでは多くのベンチャー企業が生まれたのでしょう。
出井 かつて、米国経済は、日本のものづくりに圧倒される苦しい時代を経験しました。その中で、企業の研究機能が大学に移管され、そこから大学発の有力ベンチャー企業が誕生しました。そうしたベンチャー企業に資金を提供し、社会としても製品・サービスを積極的に利用しようという、ベンチャーを育てる生態系の存在が大きいと思います。
――米国と日本の違いはどこにあるのでしょうか。
出井 日本のベンチャー投資は、苗木を植える植樹にとどまって、大木や森林まで育てようという視点が不足しています。米国では、「エンジェル」と呼ばれるお金持ちが、長期的な成長を支える、我慢強いリスクマネーを提供しますが、日本では、そうした成長資金の提供者がほとんど見当たりません。日本のベンチャー・キャピタルは、投資先が一定規模になると、早めに資金回収しようとすることが多く、起業家もIPOで少しまとまったおカネを手にして、満足してしまうケースが目につきます。もっと大きな志を持って、グーグルやフェイスブックのような企業価値の高い会社を目指して、大きくIPOをして欲しいと思っています。
――ソニーをはじめ事業会社もベンチャーに投資してきましたね。
出井 産業系の会社のベンチャー・キャピタルは、自社事業の関連技術を持つベンチャーに投資することが多いです。しかし、大企業では、競合する技術を保有していることも多く、社内から反対を受けるケースも多い。本業の将来に危機感を持つ業界の企業などは、自社事業に関係なく、純粋なベンチャー投資に熱心ですが、少数派です。
東日本大震災を機に動き出した若者に期待
――これからの時代と、ベンチャー企業が果たす役割について、どんな見通しを持っていますか。
出井 インターネットに次いで、世の中を変革する2個目の隕石が、スマートデバイスの登場です。人々は手のひらにスーパーコンピュータを持つ感覚で情報に接するようになるでしょう。今でも、人々は、どこで食事をするか、店で何を買うかなど、ネットを通じた情報で決定をしています。企業側のサプライの論理より、利便性などユーザー側の論理が優先され、生産、広告の仕方は変わらざるを得ません。
ネットワークでつながった個々人は、「第五の権力」(元グーグルCEOのエリック・シュミットらの著書)とも言うべき強大な存在になります。そうした変化をビジネスにするベンチャーが、出てくるはずです。
――今回のベンチャーブームをどう見ていますか。
出井 今まで日本は「変わらないこと」を是としてのらりくらりとやり過ごしてきました。今回は東日本大震災の影響が大きいと思います。東北地方の産業復興、原発事故後のエネルギー問題など、何とかしたいという若い人の思いが背景にあります。良い大学を出て、大企業に入れば一生安泰という時代ではありません。それを実感した若い人たちは、グローバルを視野に、ベンチャーに挑む流れは進むでしょう。
私も、もう少し若ければ、ベンチャー事業をやってみたいのですが、今は、これまでの経営者としての経験を生かした軍師役として、思い込みが強くなりがちな若い起業家に、アドバイスや支援を送りたいと思っています。