
新薬開発における課題
時間と労力のかかる新薬開発だが、近年ではとくに成功確率が低下し、10年前と比較すると格段に難易度が上がっているという。
第二公共事業本部
社会保障事業部
デジタルソリューショングループ
課長
関根 志光氏
臨床プロセス戦略部
アウトソース戦略グループ
グループマネジャー
塚本 豊和氏
NTTデータの関根志光氏は「医療技術が進歩したことにより、すでに可能なものはおおかた解決をみています。いまだ有効な治療法が確立されていない疾患は非常に複雑化しているものであり、結果、開発も難しくなっています」と説明する。
「有効な治療法が確立していない病気や十分に満たされていない医療ニーズ(アンメットメディカルニーズ)を満たすため、さらに優れた治療法が必要とされる中、治験に求められるデータの品質も上がっており、製薬会社にはより高度なチャレンジが求められている」と語るのは、中外製薬の塚本豊和氏だ。こうした状況の中、治験のプロセスはさらに複雑性を増し、期間も費用も増加傾向だという。当然、その効率化にはICTの力が必要になる。
治験プラットフォームとは
一口に治験と言ってもそのプロセスは主に3つに分かれ、非常に煩雑な業務や検証が必要になる。
第二公共事業本部
社会保障事業部
デジタルソリューショングループ
課長
梅原 聡史氏
最初の上流工程は、治験を行うための設計書すなわち治験実施計画書の作成業務だ。これは製薬メーカーが担当する。次に治験実施計画書に従って医療機関が患者に投薬を行い、臨床データを収集する。そしてその臨床データを製薬企業のデータベースに格納し、解析したうえで、新薬の承認申請を行うプロセスが存在する。
「新薬開発というのは、製薬企業だけで行うことはできず、医療機関との連携が不可欠です。そのためステークホルダー全体で効率化を図り『つなぐ』ためのプラットフォームが必要だと考えました」とNTTデータの梅原聡史氏は、プラットフォーム開発の経緯を説明する。
バイオメトリクス部
臨床SIG
髙橋 真実氏
そのコンセプトに共鳴したのが中外製薬だ。「他のベンダーからデジタル化を進めるサービスは個々に提供されていますが、製薬会社と医療機関をつなぐプラットフォームは今までなく魅力的でした」と中外製薬の髙橋真実氏は言う。
「少しでも早く良い薬を患者さんに届けたい。それが新薬開発の目的であり、プラットフォームがそれに貢献してくれると考えた」(塚本氏)
治験関連文書作成を約60%効率化
中外製薬の協力の下、昨年行われたのがAI技術を活用した治験関連文書の作成効率化ソリューションの実証実験だ。
治験を行う際には、膨大な文書作成がついてまわる。基本となるのは治験実施計画書であり、それをベースに患者用の同意説明文書、統計解析計画書、患者の治験データを入力する症例報告書、さらには治験結果をまとめる総括報告書などが存在する。
第二公共事業本部
社会保障事業部
デジタルソリューショングループ
主任
箕輪 一輝氏
「治験実施計画書だけでも少なくて50ページ、多ければ150ページほどになります。これをすべて読み込んで、患者さんでも理解しやすい平易な表現で同意説明文書を作成する必要があります。これまでは文章作成ソフトなどで人の手を使い確認していましたが、そこを可能な範囲で自動化し、効率化を図るというものです」と実証実験の内容をNTTデータの箕輪一輝氏は振り返る。全体のプラットフォーム構想の中でまずは上流工程を検証した結果、治験実施計画書から同意説明文書への展開など1つの関連文書作成に対し平均で約60%もの効率化を実現したという。
治験実施計画書は一度作成して終わりではない。治験が複雑化しているため、途中で実施計画を変更することも多々ある。その都度関連文書も変更を要する。自動化すればヒューマンエラーも軽減できる。この点だけでも効率化は随分と進むが、さらに目指すのが標準化と共有化だ。
治験プロセスに革新を起こす
実証実験の結果やこうした製薬業界全体の変革構想を基に生まれたのが、NTTデータがグローバル展開を見据えて提供を開始した治験トータルソリューションプラットフォーム「PhambieLINQ」だ。3つのソリューションからなり、最も上流が実証実験で行った治験関連文書の作成に関するもの。2つ目が医療機関で効率よく臨床データを収集するソリューション。3つ目が医療機関が作成する臨床データファイルを安全なネットワークを介して製薬企業に送るソリューションだ。
今回、NTTデータは3つ目の「Clinical Data Transfer」を第1弾として2020年12月より提供を開始した。医療機関における転記作業の削減やミスを抑制でき、製薬企業側のデータ品質を保つことにかかる労力や負担の削減に貢献する。1つ目、2つ目のソリューションは今後順次提供を開始するという。
「医療機関では、計画書を基に治験を進めていくわけですが、計画書の規格が製薬企業各社でバラバラなため、それぞれの確認に必要以上のコミュニケーションが発生しています。その抑制のためにも、『PhambieLINQ』ではドキュメントの標準化を進めていきます」(箕輪氏)
髙橋氏は、そのうえで期待しているのが共有化だという。「薬剤に特化する情報は企業が独自に持たざるをえないですが、データに関する規格や文書のテンプレートというのは、各社のこだわりを捨て共有化することで、医療機関も含めた治験全体の効率化やリソース削減が図れると期待しています」。
既存の電子カルテや臨床データのシステムの入れ替えではなく「つなぐ」ことでソリューションを提供できるのは、長年製薬企業や医療機関のデジタル化に携わってきたNTTデータだからこそだ。現在、日本での治験費用は海外に比べ高いために、海外での新薬の開発が増え、日本が治験実施国から外れてしまうことが危惧されているという。それは、既存の診療で治らない患者の新薬という希望の光を閉ざすことになる。「PhambieLINQ」で少しでも日本の治験環境が改善し、より良い薬を待つ患者に一日でも早く安く薬が届くよう業界全体の変革に期待したい。
「PhambieLINQ」および「Clinical Data Transfer」は、株式会社NTTデータの商標です。
