地熱のまち"ゆざわ"の熱き挑戦 地域の宝を産業振興に生かす

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地球の恵み・地熱資源を多彩に生かす
「地熱のまち“ゆざわ”」の発信力

新たな発電事業も始動。さらなる産業振興へ

秋田県は、地熱発電やバイオマス発電が盛んで、再生可能エネルギーの利用を進めるうえでは極めて恵まれた環境にあり、中でも地熱発電はその大きな役割を担っている。今回訪ねた、秋田県南部に位置する湯沢市も、稲庭うどんや 川連 かわつら 漆器などの地場産業が豊富な一方で、「地熱のまち」として知られている。

市が位置する西栗駒一帯には小安峡温泉、秋の宮温泉郷、泥湯温泉などが点在し、日本有数の地熱賦存地帯といわれている。その地域資源を活用し、1994年には設備容量2万8800kWの上の岱地熱発電所が運転を開始。2019年には、出力1万kWを超える大規模地熱発電所としては国内で23年ぶりとなる山葵沢地熱発電所(4万6199kW)が運転を開始した。また昨年11月には、 木地山 きじやま 地熱発電所(仮称)の新設が発表され、小安地域のかたつむり山発電所(仮称)や 矢地ノ沢 やちのさわ 地域でも地熱開発調査が進んでいる。

さらに湯沢市では、発電以外にも地域の産業振興に地熱が生かされており、JOGMECから地熱資源活用の「モデル地区」に認定され、19年8月には「地熱資源を地域に活かす~湯沢市の経験を踏まえて~」と題したシンポジウムも開催されている。このように、湯沢市の取り組みの中にはほかの地域でも参考になるものが多い。ここでは、それらの中から注目すべき取り組みを紹介する。

熱水でハウスを温め真冬でも新鮮野菜を栽培

佐藤章さんは、湯沢市 皆瀬 みなせ 地区で7年前から農業に地熱資源を活用している。この地域では約35年前からハウス栽培に熱水が使われており、佐藤さんもハウスで土耕のトマト栽培を3年行ったあと、パクチーに切り替えて水耕栽培を始めた。「そうした中で、とくに冬場は地元の飲食店から新鮮な野菜が手に入らないという声が寄せられ、レタス類の栽培も始めて種類を増やしてきました」と話す。

熱水を活用して育てたパクチーを収穫する佐藤さん。首都圏に出荷しているが、需要に応えきれないのが悩みだ

ハウス内の温度は、熱水を引き込みパイプで循環させることで、真冬でも外気より10度以上高く保つことができる。「水耕栽培の肥料水もこの熱水を使って約20度まで温度を上げていますので、真冬でも野菜を育てることができます」とのこと。

現在、佐藤さんが栽培しているのは、パクチー、サンチュ、レタス、サニーレタス、フリルレタスの5種類。このうちパクチーは東京の豊洲市場に出荷し、それ以外の野菜は地元の飲食店など約10軒に納品している。「ただ、パクチーは週に5回欲しいという要望に対し、週3回しか出荷できていません」と、需要に追いついていない状況だという。ほかのサンチュやレタスも、飲食店からもっと欲しいという要望があるが、限られた栽培面積のため供給が追いつかない状況で、ハウスをもう1棟増やすのが当面の課題となっている。

地熱の恵みによってハウス内は真冬でも暖かい。地元の飲食店には1年を通して新鮮な野菜を卸している

それでも、地元では新鮮な野菜が手に入らないことから、朝収穫した野菜をその日の午後に飲食店に持っていくと、その鮮度に驚かれるという。「味も好評をいただいており、サンチュは苦みが少ないので、焼き肉用だけでなく、サラダにも使えると喜んでいただいています」とのことだ。

こうした地熱を活用した水耕栽培の取り組みは、ほかの地域からの注目度も高く、「地元に地熱資源のある岩手や福島、さらに北海道の農家の人たちが、視察に来られています」という。

今後の目標について佐藤さんは、「雪国でも、熱水を生かせば少しずつでも栽培量を増やしていけるので、1人でも多くの皆さんに1年中新鮮な野菜を届けたいです」と前を見据える。

地熱で牛乳を低温殺菌。全国的な人気商品に

栗駒フーズは1987年、当時の通商産業省から「地熱エネルギー利用モデル事業」の認定を受けて創業。小安峡温泉に工場を建設し、全国初となる地熱を利用した乳製品の低温殺菌加工を始め、30年以上経た今も地元の地熱資源を活用し続けている。

牛乳本来のおいしさを味わってもらうため、これからも低温殺菌にこだわりたいという井上さん

地熱エネルギーを利用したことについて、営業企画担当でヨーグルトマイスターでもある井上幸子さんは、「ここでしかできないこと、ここの特徴を出せるものということで、地熱を活用することにしました」と、当時を振り返る。扱う商品も、最初は牛乳だけだったが、コーヒー牛乳、ヨーグルト、アイスクリーム、ソフトクリーム、ジェラートなど多彩な商品を開発してきた。

現在、牛乳の殺菌方法は、130度で2秒間程度殺菌する超高温瞬間殺菌が主流だが、栗駒フーズでは地熱を利用し、65度で30分殺菌する低温殺菌法を守り続けている。「そうすることで、搾りたての牛乳の成分をほとんど壊すことなく、風味豊かで濃厚なおいしさが楽しめます」と井上さん。海外では低温殺菌を行っている国も多く、工場の直営店までわざわざ栗駒フーズの牛乳を買いに来る外国人のファンもいるという。

多彩なラインナップのヨーグルトや乳製品で人気だ

栗駒フーズの工場では、 温泉井 おんせんせい から配管を通じて運ばれてきた約98度の源泉を、熱交換器を利用して温度を下げ65度にした温水を牛乳の入ったタンクの周りに回し、ちょうど〝湯煎〟をするようにして低温殺菌している。時間はかかるが、このこだわりが根強いファンに愛される乳製品を生み出しているのだ。「また、瓶の予洗いや冬場の融雪などにも温水を利用しています」とのこと。もちろん、地熱を利用した温水だから地球にもやさしい。

この地熱を活用した企業活動により、2009年には環境省の「ストップ温暖化『一村一品』大作戦」に秋田県代表として出場し「優秀賞」を受賞。10年には、秋田県の環境大賞(地球温暖化防止部門)も受賞している。

栗駒フーズの乳製品は、秋田県のみならず首都圏などでも販売しているほか、ふるさと納税の返礼品としても人気が高い。また、通販も行っているので全国にファンが広がっている。井上さんに今後の抱負を聞くと、「環境にやさしく健康にも貢献できる商品で、地元湯沢市をさらに盛り上げたい」と明快な答えが返ってきた。

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